強くなる為に


声を出す


無意識に陥る失敗
 声を出す事の重要性についてはこれまでも何度か述べてきました。
「気合を出す」「できる事をする」「気合について」

 けれど、道場生の様子を見ていると、その意味するところが中々わかってもらえていないようです。

 そこで、以前の記事と重複する部分もあるとは思いますが、大事なことなので繰り返したいと思います。

 今回は「声を出さない者」が無意識に陥る失敗について述べてみましょう。

 当会では色々な繋がりから、大手団体の世界大会・全日本大会の出場経験者やチャンピオン、また、今まさにそういった大会へ照準を絞ってトレーニングを積んでいる選手が出稽古に来てくれたりします。

 普通の色帯レベルでそんな人達と組手をすればひとたまりもないので、当然ながら来てくれた人達はパワーとスピードをコントロールして相手をしてくれています。一概には言えませんが、力の割合は大体20〜30%くらいなものでしょうか。

 一発いっぱつの技のパワーだけでなく、全体的に出している力が少ないのですから心肺機能の面でもそれほど息が上がりません。
 一般道場生が100mダッシュで組手しているのをジョギングで相手しているようなものです。
 動き続けても呼吸はそれほど乱れませんし、一発に込める気合もたいしたことはありません。

 自分が6才くらいの子と組手をしている事を考えてもらえれば理解してもらえるでしょうか。その子に対して突いたり蹴ったりする時に大きな声で気合を出して攻めますか?息が上がるほど動き回りますか?全日本レベルの選手が一般道場生の相手をする感覚はそんなものなのです。
 自然、出す気合も軽くなり、呼吸に合わせたくらいの強さで「シュッ、シュッ」と息を吐くだけのものになります。

 初心者の方からすれば、自分が全力で攻撃しているのに、相手は軽く「シュッ、シュッ」と息を吐くだけのようなカンジで技を出してきて、それがまた効くもんですから、同じようにやった方が息も上がらず強い技を出せるのだと勘違いしてしまうのです。

 上級者が20%のパワーで何をしているのかというと、相手との間合いやタイミングを計る稽古をしているのです。だから軽く出している突き蹴りが入った時に「効く」のです。初心者にもその稽古が必要ないとは言いませんが、それ以前にやらなければいけないのは、一発いっぱつの技にしっかりと気合を込めて思い切り技を出す稽古です。まだトータルのパワーが低いのに、上級者が20%で行なうやり方だけ真似ていても上達するわけありません。
 上級者の20%は自分の95%と同じレベルだと気付かなければいけません。
その総合力の低い自分が20%でする稽古なんて話にならないくらい低いレベルです。そんな低いパワーしか出さない稽古のやり方を真似たって強くなれるわけがありません。
 「シュッ、シュッ」と何となく上級者風に動いて自己満足に浸っているだけです。

 「声を出す」という事は「気合を出す」という事です。気合を入れて稽古しなければ上達しません。気合を入れるという事は気持ちを入れるという事です。声を出さない稽古には気持ちが入っていません。

 また、咄嗟の時に「息を飲む」と言いますが、「息を飲」んだ状態では、当然ながら呼吸も止まります。その状態ではすぐに苦しくなって動けなくなり、パワーのある攻撃も出せなくなります。
 それを「声を出す」ことで打ち破るのです。呼吸をするのは生体活動なので、とっさの時に息が止まってしまうのは仕方ないところもあるのですが、そんな時には意識的に呼吸しなければいけません。人に襲われた時にも恐怖で「声が出なかった・・・」とよく言いますが、これも同じ理由からです。けれど、「声を出す」事は自分の意思でコントロールできる意識的活動ですから、普段から声を出すトレーニングを積んでおくとイザという時にも声が出せるようになるのです。
 声を出せるという事は呼吸ができているということです。無意識に止まってしまう呼吸を意識的に声を出す事で呼吸できるようにするのです。

 非常時に助けを呼ぶ「声」と同様に、普段から訓練しておかないと大きな声で気合は出せませんし、気合を出さないと低いパワーしか出ません。声を出す事で発揮できるパワーが上がるというのは以前に述べました。
普段の稽古で声が出せないという事は、より大きいパワーを出すトレーニングができていないという事です。

 まだ、そのレベルに達していないのに、上級者のマネをして「シュッ、シュッ」と言いながら稽古している人間はうまくなりませんし、強くもなれません。  「いや、俺はそれで強くなっているぞ」という人は、元々の素質のある人です。けれど、素質に恵まれていたとしても、確実に自分の能力を高めていける稽古をするためには声を出さなければいけません

 私の師範が日本で指導している時に、
「そこらへんにネコでもいるのかぁー!?」
 と怒っていた事があります。
 最初は何の事かと思いましたが、
「シッシッ言ってるんじゃないよ!」
 と言われて、息を吐くだけの気合とネコを追い払う様子を掛けて言っているのだと気が付きました。
 理由を細かく言われる方ではなかったのですが、その意図するところは上に述べたような事だと、今になってわかります。

 また、別の師範は「声は勢」だと述べておられます。声を出し、勢いに乗ることが重要だという事です。
 声を出さずに黙ってやっていては勢いに乗る事ができません。

 道場内で上級者は初心者の手本となるべきですから、稽古ではキチンと気合を出すべきです。大会などを目標としている練習ならば調整のトレーニングで「シュッシュッ」と息を吐くだけのものでも構わないかもしれませんが、武道の稽古をしているならば「声を出す事」「気合を出す事」の重要性をもっと認識するべきです。  他の項にも書いているように、スポーツ的に見た場合にも「声を出して気合を掛ける」 事はパフォーマンスの向上に繋がるのですから、声を出さない利点などどこにもありません

 自己満足の、上級者を真似たやり方でやっていては上達は望めませんし、上級者であっても空手道場で「稽古」しているのですから、しっかり気合を出して欲しいものです。


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