ワセリンの重要性


「顔面有り」の稽古を安全に行なうために
最近はグローブ空手もかなり競技人口が増えてきたようです。以前はグローブで顔面を叩くという過激さから、実際に取り組む人は少なかったのですが、K−1などテレビの影響もあるせいか、少し敷居が低くなってきたようです。
しかし、競技人口の拡がりとその内容・レベルとはまだまだ比例していないようです。

顔面有りの場合はとりあえず当てれば効き目がある為、ただグローブを振り回しているだけの選手が多く見られます。それでも当たれば一発逆転があることから、技術レベルが低いままでも勝ってしまうことがあります。そうするとキチンと技術を身に付けるよりも、気合でガムシャラに頑張った方がいいのだ、と選手は勘違いしてしまいます。
そうなると、殴り合いをする中で技のコツを覚えて上達していくことのできる選手、つまり素質のある選手しか残っていかないことになります。
そんなものはとても「武道」とは言えません

また安全面でも気をつけなければいけない部分が、顔面無しのフルコンルールよりも多くあります。

一番大きなものは脳へのダメージに対する配慮ですが、それについてはまた別に述べているのでそちらを参照してください。
次に問題となるのは顔面への外傷です。 ただでさえ顔に怪我をすると目立つものですが、営業の仕事などをしていれば、直接影響してきます。
顔面への外傷に気を配るために必要なのが、マウスピースの着用とワセリンの使用です。
マウスピースについては別に書いてありますので、ここではワセリンの必要性を述べたいと思います。

ワセリンは医学的な治療として皮膚の保護にも使われるものです。
誰でも使ったことがあると思いますが、「メンソレータム」の主成分はワセリンですし、その他にハンドクリームや化粧品にも広く使われているものです。
ワセリンの単体は薬局で瓶入りのものが販売されており、高価なものではありません。 べとつきがありますが、服などに付いてもシミになることはありませんから敬遠せずに使用してもらいたいものです。

何のためにワセリンを使うのかですが、薬用としては皮膚の乾燥を防ぐというのが第一に挙げられています。しかし、グローブで顔面を叩かれた時に必要とされる効用は、ワセリンによる「滑り」が重要な役割を果たします。
ボクシングで顔が切れる原因の第一がバッティング(頭突き)ですが、パンチによって切れる場合もあります。「切れる」といってもハサミやカッターナイフで切るのとは違い、どちらかというと皮膚が「はじける」ような形で切れます。

部位は眉や頬の高くなっている部分などがよく切れます。その原因は皮膚が薄く、押えられて動く部分の可動範囲が狭いせいです。グローブが当たった時に皮膚が分厚い部分だと表面が引っ張られても皮膚の歪みを吸収することができるのですが、骨との距離が近い為に皮膚が薄くてその歪みを吸収できず、結果として皮膚が裂けてしまうのです。

それを防ぐためにワセリンが必要となります。

粘着テープが付いているわけでもないのですから、革製のグローブが人の皮膚が裂けるまで引っ付くものなのか、と疑問に思うかもしれません。しかし、摩擦力というのは思っているより強いものです。

この写真は最近流行っているサンダル型のシューズがエスカレータに巻き込まれた事件を検証した記事です。
もちろんサンダル自体に粘着力はなく、またエスカレータの側面にも粘着力はありません。ところがサンダルの素材とエスカレータ側面の材質が重なった場合には非常に強い摩擦力が生じるのです。

記事にも載っているように、エスカレータの側面に油を塗布していれば、サンダルが巻き込まれる確率はほとんどなくなります。それほど潤滑剤の果たす役割が大きいということなのです。

ところがグローブで顔面有りの稽古をしている空手道場では、めんどくさいとか、道着が汚れるとかの理由のためか、ワセリンを使用していないところがとても多く見られます。
グラブが直接顔に当たらないヘッドギアを使用して、スパーリングする程度であればワセリンを使わなくてもそれほど問題は無いかもしれません。しかし、試合などで直接顔面にグローブが当たる時には絶対に使用するべきです。

そういった部分をいい加減にしている道場・指導者は、安全面に対しての意識が欠如していると言えます。

ケガを気にするようなヤツは甘っちょろいなどと言う人もいますが、強くなる為に安全を犠牲にしてはいけません。安全に強くなれるからこそ、社会の中で空手が(武道が)必要とされるのです。

顔面有りの稽古をする時にはワセリンとマウスピースは必需品です。めんどくさがらずにきちんと使用するようにしましょう。


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