鳳雛会式


キックミットの持ち方

鳳雛会ではキックミットを使って稽古をする時、少し独特な持ち方をします。
これは持ち手の負担が少なくなるように配慮しているのが第一ですが、蹴る側の意識にも視点をおいた持ち方になっています。

そうは言ってもキックミットを持つのにそれほど多くのバリエーションがあるわけでもないので、もしかしたら同じ持ち方で稽古している道場の方がおられるかもしれません。しかし、鳳雛会ではもう15年以上前からこの持ち方を指導していますが、他の道場の方で同じ持ち方をしているのを見たことがありません。ですから鳳雛会オリジナルと言っても差し支えないと思っています。

まず基本的な持ち方では、キックミットのベルトに腕を通して一番上のベルトを上から掴みます。これを鳳雛会では「順手」と言います。
逆に、一番上のベルトに下から指を通してベルトを掴むように握るのを「逆手」と呼び、コンビネーションを受ける時などはこの持ち方をする場合があります。

かなり以前に格闘技系の雑誌に載っていた記事ですが、ムエタイ系では「順手」で持っているが、極真系の道場では「逆手」が多いという取材がありました。なぜそうしているのかという理由までは述べられていませんでしたが、私の推測では、ムエタイではミットの持ち手が職業になるほど専門性が高く、持ち手は蹴りを受けることに専念しているのに対し、極真などのフルコンタクト系の道場では、「ガンダム」と呼ばれるような防具を全身につけてスパーリング形式の中で蹴りを受けることが多いため、受ける側が組手の構えでガードを固めた時に、腕の外側にミットがあった方が受けやすいからだと思います。

鳳雛会では「順手」をメインにしています。その理由は下記の通りです。
サンドバックが吊るせない場所で、蹴りの練習をする時にはキックミットを使うしかないのですが、力の入った蹴りを受ける場合には持ち手は「順手」でないと力が入りません
なぜなら人体の構造がそうなっているからです。

例えば、壁を力いっぱい押してくださいと言った時に、手の甲を使って押す人はいません。力が入らないからです。手のひら側を外に向けた方が力が入るのに決まっているのに、ミットを持った時には、なぜ手の甲側で受ける人が多いのでしょうか?
初心者は、ミット最上部のベルトがきつくなっているいることから、指を通して持つとフィットしたような感じになり、意識して握らなくてもミットが外れないような気になるからでしょう。
上級者であってもそのように持っている場合は、たぶん先輩がそう持っていたからというような、持ち手の思い込みに過ぎない場合がほとんどだと思います。
パワーのある蹴りを受けるのに甲側では力が入りません。持ち手の負担が大きく、無駄な疲労や怪我に繋がることさえありますから、しっかりと力の入る持ち方をするべきです。

基本的には持ち手は両腕に一つずつミットを持ち、2つのミットを使って蹴りを受けます。ただし、子供などで両手に持つと大きすぎる場合には1つだけのミットで受ける場合もあります。 その場合は片腕だけミットのベルトに通し両手でミットの一番上のベルトを外から掴みます。子供は何も言わないと両腕をベルトに通すことが多いのですが、その形でミットの上部を蹴られると「てこの原理」で持ち手の力が弱くなり、受け切れません。ミットをはめていない手でしっかりと上部を押えなければいけません。
体がまだ小さい場合は、体格に応じて一番下のベルトには腕を通さずに真ん中のベルトから腕を入れた方がよい場合もあります。

2人一組で行なう場合、右の回し蹴りを受ける時には持ち手は左手にミットをはめ、左足を前に出して構えます。逆に構えてしまうと蹴りが背中側から出てくるため、死角になって動きが見えにくくなります。

一般部では両手にミットを持ちますが、この時の持ち手の構え方が他流派と大きく異なり、独特な持ち方をします。
上記と同じように右の回し蹴りを受ける時には左足を前に出して構え、左のミットで蹴りを受けます。右手側のミットは補助として添えるのですが、この時、ムエタイを始め、多くの空手道場では二つのミットを並べて、受ける面積を広くしているようです。これは蹴りのパワーを分散させるのが目的です。

ムエタイの場合、蹴りのヒットポイントは足首から膝下までの脛全体であり、受ける側も2つのミットを使って脛全体を受け止めます。
また膝をあまり畳まずに脚全体をしならせ、脛の部分を相手にぶつけるように蹴るのでミットは45度くらい下に傾けて受けています。

鳳雛会では受ける面はできるだけ立てて、蹴りが横から当たるようにします。
これはしっかりと膝をかい込んでタメを作り、膝のスナップを使って目標の横から蹴りが当たるように稽古するためです。

そしてこれが一番の特徴となりますが、補助側のミットをメインで受ける腕の肘に挟むようにして構えます。つまり蹴りが直接ヒットするミットは1つだけになるということです。

なぜそうするかと言うと、空手の場合は基本的な蹴りの形として膝をかい込んで蹴ります。ですから空手の稽古としてキックミットを蹴る場合には、まずキチンと膝を上げて蹴り足を畳み、小さなヒットポイントに対して正確に目標を捉える稽古をする必要があります。特に上段を蹴る場合は、狙ったところをピンポイントで正確に蹴れるようにしなければいけません。そして、蹴った後も同じ軌道を辿って膝を曲げて引き取ります。

とにかく力を込めて思い切り蹴って、どこかが当たればいいというのでは空手の稽古ではありません。正確に技が使えるように稽古するべきですから、2つのミットに広く目標を持つのではなく、1つのミットの一点に狙いを絞って蹴るべきなのです。
以上の理由から、一点に集中して蹴りを稽古するためには、目標となるキックミットは一つだけの方がよいのです。

もちろん空手にも「蹴込み」といって、蹴り足を引かずにそのまま相手に押し込むように蹴るやり方もありますが、これはムエタイなどの影響を受けているからだそうです。

また受ける側からしても2つのミットを並べて構えるより、重ねて構える方が受けやすくなります。並べて構えていた場合、蹴る側や受ける側の技量が低いとヒットポイントが2つのミット全体にならず、片方だけにパワーが集中する場合がよくあります。そうなると片腕だけで蹴りの力を受けることになり、持ち手の負担が大きくなるのです。

鳳雛会方式だとヒットするミットは1つですが、その後にもう片方の手を添えていることでパワーのある蹴りにも力負けしません。その上、ミットを肘に挟み込むことによって蹴りのパワーを2つのミットのクッションで受けることになり、持ち手の負担が大きく軽減されます。

ただ、この持ち方は本革製のムエタイ用ミットや横幅の広いミットでは少し受けにくいかもしれません。使用する用具に合わせて持ち方は代えるべきですが、一般に普及しているタイプのキックミットであれば、この「鳳雛会方式」がベストではないかと思っています。

これを読まれた空手実践者の方は、是非一度この持ち方を試してみてください。持ち手の負担が大きく減る事と、空手の技の稽古として正確にミットを蹴るのには、鳳雛会方式が最適だということを実感してもらえると確信しています。
そして、よければ体験した感想を送ってきてください。もし不備な点や改善点が見つかりましたら、またこの場で発表したいと考えています。


inserted by FC2 system