手数だけでなく


捨て技、極め技


組手の基本と技術の向上

 組手をやり始める時には、まず突き、蹴りがきちんとできるようになることが前提ですが、次の段階では技の組み立て(コンビネーション)が必要になってきます。そして、鳳雛会で技法(テクニック)として最初に覚えるのは捨て技、極め技です。

 組手で相手を攻撃する時の基礎であり、且つ、上級者にとっても重要な技法が捨て技と極め技の中にあると思います。

 一発で相手を倒せるパワーがあって、それを鋭く速く出せる技を持っているのなら、そんなコンビネーションは必要ないかもしれませんが、普通の空手家が出す技と世界チャンピオンの技とで、スピードが2倍も違うなんて事はありません。
 ほんのゼロコンマ何秒の違いに過ぎないものです。0.0何秒の違いで技が決まるということはありますが、今まで0.1秒で出していた技を0.05秒に縮めるというのはまず無理です。

 もちろん、その僅かな差で技が決まるか、避けられてしまうかということはあるので、技自体のスピードを上げる稽古はもちろん大切ですが、上級者同士が組手をしている中で、0.1秒で出していた技を0.05秒まで早くするなんて事はよっぽど才能に恵まれた人が死ぬほど努力してもできるかどうかというものでしょう。

 だとしたら、どんな稽古に力を注ぐべきなのでしょうか。

それは技を出す「タイミング」です。
 相手が攻めてこようとするタイミングを見計らってカウンター攻撃を合わせるとか、そのタイミングを外して攻めることが必要になってくるのです。

 これが「気を読む」ということであり、そこに上級者と初心者の経験の違いが現れてくると言ってもいいものです。「呼吸を合わせる」とか、「呼吸を外す」という言い方をしたりします。

 捨て技で相手の受けを誘い、空いたところに技を決める
 とても単純な事ですが、これを考えてコンビネーションを組み立てるのと、とにかく多くの技を出して相手を攻めるのとでは、その質に雲泥の違いがあります。

 現在のフルコンタクト空手の試合では、ルールで時間制限や禁止技がありますから試合時間の間休まず技を出し続けて攻めるスタイルが有利になっています。だから若くて激しく動き続けられる選手が活躍することになります。人の身体能力のピークは20代前半にあるのですから、それは当然のことです。

 けれど、その中で、ベテランと言われる選手が対抗していくには、若い人と同じように動き続けられる運動量を目指すのではなく、間合いをどう取るのかや、技を出すタイミングを磨くことが重要になってくるのです。

 どんなにパワーのある技でも当たらなければ痛くないし、当たったとしてもヒットポイントさえ外せばそれほどダメージも受けません。
 もっと言えば、かわすだけで受けなくてもよいくらいのものです。

 けれど、受けたりかわしたりしているだけでは相手を倒すことはできませんし、当然試合で勝つこともできません
 そこで、勝つためには攻めることが必要になってくるのですが、その時にもベテランに求められるのは体力に任せたガムシャラな攻めではなく、捨て技、極め技を組み立てて効率よく攻めることなのです。

 力任せ、体力任せの組手でなく、技術を競うことで優劣が決まる要素があるからこそ、空手が単なるスポーツではなく武道として存在する意味があり、年配者が若者に優る可能性があることが、年をとっても稽古を続けていく意欲を奮い立たせるのだと思います。
 スポーツとしてはオリンピックの標語にあるように、「より速く、より高く、より強く」を求めて努力するものですが、肉体的なピークを過ぎてもその種目を続けるモチベーションを維持するためには、肉体的なものに頼らなくても技術と経験によって肉体の衰えをカバーできるものが大切になってくるのだと思います。

 その一番重要な技術が「捨て技、極め技」です。間合い、タイミングをいかに取るかというところに長年の経験と知識が表わされるのであり、その向上を目指すことが体力に頼らない上達に繋がっていくのだと思います。


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