上達のために必要な事


素直さ
 空手を習って上達していくために、必要な素質は何なのでしょう。
 柔軟性?筋力?それとも反射神経でしょうか。

 勿論こういった運動能力は高いに越した事はありません。けれど、初めは不器用でもコツコツ空手を続けた者の方が最後には強くなれるものです。

 では、身体的能力以外で上達するための要素には何があるのでしょうか。

 それは「素直さ」です。

 例えば、柔軟体操をする際に「膝を曲げてはいけません」と言っても、やらない子(できない子)は傍まで行って曲げている膝を指差して「ここを伸ばしなさい」と言うまで膝を伸ばしません。
 サボってやらないのではなく、言われている事自分の状態(今、自分の膝が曲がっているという事)が一致していないのです。
 その本人は直接言われるまでは自分ができていないと気付くことができないのです。 そんな状態で上達するはずありません。しかも、そんな子は直接指示して直させても、次の時にはもう元に戻っています。どこをどう注意されたかを意識していないから全く忘れてしまっているのです。

 このように正しいやり方を覚えようとしないのは、うまくなろうと努力していないのと同じです。言われた事をその通りにやろうとしないのは、素直さがないということです。指導される時に素直さがなければ上達が遅れるのも当然です。

 ここで言う「素直さがない」というのは、何も天邪鬼(あまのじゃく)に言われたのと逆の事をするひねくれた性格を指しているのではありません。むしろ、一見おとなしく、まじめそうな感じの子であっても言うことを「素直に」聞けない場合が多くあります。

 これは何故か?

 本人がそれほど空手をうまくなりたいと思ってないんですよね。
 「こういう風にやったらうまくなりますよ」と言われても、自分のやり易いようにしか稽古をしません。言われた通りにやる「最初のやりにくさ」を乗り越えようとしないのです。

 なぜなら、そこまでしてうまくなる事に重要性を感じていないからです。今の自分のレベルでやれるようにしているだけで満足しているのです。もちろん回りを見て、もっとうまくなれたらいいなぁ、とは感じるのですが、その為にしんどい思いをしようとは思えないわけです。

 だから「素直」にいうことが聞けないのです。

 逆に言えば、「素直に」アドバイスを受け入れ、指示通りに稽古していれば上達するんです。

 そうは言っても子供に長期間、高いモチベーションを持ち続けろという方が無理な話で、気持ちには必ずムラが出てくるものです。
 けれど、モチベーションが下がっても辞めずに続け、「素直に」指導に従って稽古していれば必ず上達します。そして、上達したらヤル気が出るという好循環のサイクルに乗れれば、更にうまく、強くなっていくことができます。

 特に子供の場合はモチベーションが下がった時にも続けていけるよう、叱咤激励して頑張らせる親のフォローが重要になってきます。そして、そこで注意された事を「素直に」正す事が大切なのです。

 自然にヤル気が出るのを待って・・・なんて言ってたら子供の興味なんてあっという間に別のものに移っていきます。新しい事をやるほうが新鮮で楽しく感じるものだからです。けれど、一定レベルまでくると、それ以上うまくなるためには「楽しくない」反復繰り返しを経て、しっかり技術を身に付けなければ次のレベルに到達できません
 そこで頑張る事ができないと、また別の楽しそうに見えるものに気が惹かれて、やっていた事を投げ出してしまうことになるのです。
 子供のうちは長期間を見据えた長い目で物事を見ることができません。やった事の成果がすぐに見えないと、自分には向いてないんじゃないかと思えてきて楽しくなくなってくるものです。
 本当に、もっと自分に向いた競技なり種目が別にあるのなら、そちらを選ぶのに何の問題もありませんが、どんなものでも一定以上のレベルに到達する為には乗り越えなければならない壁があります。
 そこまでいって初めて、それが自分に向いているかどうかの判断を下せるのだと思います。そして、そこへ到達する最短の方法は「素直に」言われたとおり稽古をする事です。
 一見、ヤル気が無くなって続けたくないように見えても、「素直に」指導者の言うことを聞き、頑張らせるように保護者の方には子供を励ましてやって欲しいと思います。

 更に、これらは大人にも同じ事が言えます。

 「素直に」指導者の言う事を聞いていますか?
 言われた事に「押忍!」と返事はしていても、心の中では「そうは言っても・・・」と、できない言い訳を探していないですか。

(身体がカタいから)
(力が弱いし)
(太っているから)
(痩せているから)
(ケガをしているし)
(今日は疲れたから)
・・・・・・
 できない理由はいくらでも付けられます。そして、できない今の状態仕方ないと諦めていませんか。

 「自分にはちょっとムリ・・・」と思える事でも、とりあえず言われたとおりにやってみるのです。
 それが完璧にできていなくても、とにかくやり続けるのです。
 そうやって繰り返していたら、できなかった事がいつの間にかそこそこできるようになり、形もサマになってきます。気が付けば、「何となくできている!?・・・」ようになっているものなんです。
 一気に突然うまくなる事はなくても、続けていけばそれなりになってきます。
 そのためには「素直に」言われた事をしていけばいいのです。

 そして、これは上級者にとっても、より上達していくためにはとても重要なポイントとなります。
 ある程度上級者になれば自分に合った稽古法などが見えてくるもので、指導者から教わった事より「こっちの方がもっと良いのではないか」とか、「自分にはこのやり方の方があっている」と思えるようになってきます。もちろん物事の良し悪しを自分で判断できるようになる事は重要なのですが、往々にして自分のやり方ではそれほど良い成果を挙げる事はできないものです。
 「自分に合っている」「やりやすい」稽古法ですから、そこそこうまくはいきますが、ある一定のラインを越えようとした時に足踏みしてしまうことが多いのです。

 自分自身では気付けない点や、つい甘くなってしまうところを指摘してくれる存在が指導者なのです。

 それなのに自分に自信があるほど、自分のやり方に固執してしまい。指導者の話を素直に聞けなくなってしまう者が多いのです。

 もっと上達したいのなら「素直に」言われたことをやるのです。

 特に武道の場合、自分でアレコレ考えてやるのは後からです。「まず形より入る」という言葉があるように、最初は言われたとおり「素直に」やるのです。自分で考えて練習してうまくなれる奴は、それだけで天才です。

 武道は天才の為だけにあるものではありません。コツコツ言われたとおりにやるしかない凡人であっても、それなりにモノになるのが武道です。その武道の中で自己を発見し、精神的にも一段高いところへ上れるよう稽古に励んで欲しいものです。


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