促通反復


脳科学的上達方法
 先日、TVを観ていた時に非常に興味深い内容の番組をやっていました。
h23.9.4(日)NHKスペシャル
「脳卒中・リハビリ革命 脳がよみがえる」

という番組です。

 脳卒中のリハビリでは6ケ月を過ぎると効果が落ち、回復が止まってしまうと言われていましたが、川平和美教授(鹿児島大学病院霧島リハビリテーションセンター)の考案した新しいリハビリを行なえば回復の進行が見られるというものでした。

 脳卒中でマヒが起こるのは、脳の血管が詰まってしまうことで脳の一部がダメになり、体を動かすための脳波が通るルートが絶たれてしまうからです。

 マヒした手を動かす時の脳活動を見ると、脳はそのような時に別のルートを使って命令を伝えようと脳内のいろんな方向へ命令を出し、脳からの指令を何とかして動かしたい箇所へ届けようとします。
 この時は脳全体が非常に活発に活動しているにもかかわらず、身体は動きません。本来、手を動かす時には脳のその手に対応する部分だけが活性化するものです。
 脳全体が活性化しているのに自分の動かしたい部位が動かないのは、脳卒中によって脳波が流れなくなった部位をバイパスして、目的とする部位を動かすルートを脳が懸命に探しているからです。

 一般的なリハビリの場合、医師は患者に指導し、その後は見守るのが基本です。ところが川平教授のリハビリは、一般的に行われるような本人が歯を食いしばって頑張るものではなく、施術者が患者の体を動かしながら、同時にその周辺の筋肉に刺激を与えるというものです。
 これによって脳から各部位への命令がうまく流れていなかったものが、刺激と共に動かすことで、体を動かすための命令が通る神経ルートの場所を脳に伝えるのです。これを「促通反復」と言うそうです。
このリハビリ施術を100回ほど(時間にして5分足らず)繰り返した後には、4年間リハビリの効果が全く出ていなかった部位が、自らの意志で動くようになっているのです。
 つまり、脳に新しい信号の出し方を覚えさせる治療方法が「促通反復」なのです。

 なぜ、この話を取り上げたのかというと、同様の方法で空手の技が上達するのではないかと思ったからです。
 新しい技を覚えたばかりの頃は、身体の動きがぎこちなく、自分の狙った通りの場所を突いたり蹴ったりできないものです。
 自分が「こんな形で蹴りたい」と思っていても、まだ体が技を覚えていないために脳から出た身体を動かすための命令が、きちんと各部位に届いていない状態なのです。

 この状態が脳卒中で身体がマヒを起こしているのとちょうど同じだと考えられます。

 だから、技を覚えるために、初めはゆっくりした動きで、繰り返し体で覚えていくというのが脳卒中のリハビリと重なるのです。
 空手の技を行うのもリハビリをするのも、脳波の身体を動かす指令によって体が動かされるのですから、同じ方法で上達できるはずです。

 具体的に言うと、自分ではなかなかうまくできない技の動きを練習する時に、他人に補助してもらいながら行うことで、脳からの指令をきちんと体の各部位に伝えられるようになっていくのではないでしょうか。
 このやり方は、体の一部分だけを動かすリハビリのように簡単に補助できるものではないので、実際に活用するには難しいところもあるのですが、私が師範から習った回し蹴りを身に付けるための対人での稽古方法が、まさにこのやり方でした。
 医学の最先端で科学的に立証され始めた方法が、何十年も前に私が指導された方法と重なっていることに、改めて私の師範の素晴らしさを実感させられました。

 今までのリハビリと同じく、空手の世界でも、技を身に付けるためには自分で歯を食いしばって繰り返し行うという方法が中心でした。
 たまに指導者が、ほんの数回「こう動かせ」という程度の補助をすることがあっても、パートナーとして付いて繰り返し繰り返し正しい技の形を補助するというのは、ほとんど行われていなかったのではないでしょうか。
 この方法を応用することで、自分一人の努力では中々上達できず、技を身に付けるのに苦労していた人も、早くうまくなれる可能性が出てきたのではないでしょうか。


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