最近の流行りでしょうか、
肩甲骨の可動域を大きくすることで突きの距離を伸ばせるという指導をされている方が増えているようです。
確かに伸びる突きを出せる者は肩甲骨の動きを大きく使える者が多くいます。
しかし、組手で突く時に
「肩甲骨を大きく動かして・・・」なんて意識している人は
まずいないでしょう。
組手の中で実際に突きを出す時には、まず
相手との距離と
突くポイントへの意識が中心になり、動く相手への
変化に合わせることなどがその次にきて、その二つだけで
集中力のほとんどが費やされてしまうからです。
突いた時に相手が自分の予想より少し下がったから肩甲骨を使って距離を伸ばして・・・なんて
考えてる暇はありません。
瞬時に体が反応してそれまでに積んだ経験(=重ねた稽古)によってその間合いを調節するのです。
ですからストレッチ等で柔軟性を確保したら、後は突いた時に
自然と肩甲骨が動いていたというのが本当のところだと思います。
つまり、肩甲骨を動かして突きを出す練習に時間を掛けるよりも「突き」そのものを出す
動きやタイミングを練習した方が
効率がいいということです。
メジャーリーガーの
大谷翔平選手の肩甲骨の可動域の広さと
柔軟性は特筆するべきものがあり、それによってあれだけの素晴らしいパフォーマンスを出せているのだというのに異論はありません。しかし、彼が実際にボールを投げる時に意識している体の部位は、恐らく、リリースの手の動き、腕の振り、重心の位置や体重移動などであり、「肩甲骨をこう動かして・・・」などとはけっして考えていないと思います。(← あくまで私の想像です)
<参考>
2017.2.19 「所さんの目がテン2017.2.19肩甲骨の科学!大谷翔平165kmの秘密は肩甲骨にあった!?」
肩甲骨の可動域を大きく使えるというのは他の部位、主に
腕の使い方に付随してくるものであり、
「究極のレベル」の動きまで求めた場合に、ボトルネックとして作用する事はあるかもしれませんが、
一般の人が
「普通にうまく」なろうとする時に、そこを中心に稽古しても
それほど効果が上がるものではないと思います。
トップクラスの超上級者に対しての指導メニューとしては有効かもしれませんが、一般の道場生に対して普段の稽古でそんな動きを中心にやっていたのでは
いつまで経っても上達しないでしょう。
ずいぶん昔になりますが、古堅宗隆先生という大御所の「骨掛け三戦(コツカケサンチン)」という型を目の前で拝見させてもらったことがあります。
肩甲骨を後ろから回し、まるで亀の甲羅のような背中で三戦を行なうのですが、古堅先生は更に二重に骨掛けを行なうという達人技を披露されていました。
これも
肩甲骨の柔軟性があってこそのものですが、あくまでそれは
鍛錬の一環として行なう稽古であり、二重に骨掛けをしたまま組手をするようなものには思えませんでした。(← あくまで私の感想です)
肩甲骨を動かして突きを出せと言う指導者は、上級者が使う難易度の高い内容を道場生に指導して、
「レベルの高いことを教えてやってる!」と、
自己満足に浸っているに過ぎません。
例えて言えば、
体の固い選手に股関節の柔軟性が必要な上段回し蹴りばかりをやらせて
「もっと股関節の可動域を広く使うと伸びのある蹴りが出せるよ」と言ってるのと同じです。
蹴る時に
「股関節を開いて・・・」なんて考えるより、まずは
蹴れる高さをどんどん蹴ったらいいんです。
普段のストレッチ等で柔軟性を高めるトレーニングをしたら、後は
組手の中で何度も蹴っていたら勝手に
股関節を開いて蹴るようになっていきます。
突きも同じで肩甲骨を大きく動かすトレーニングをしていたら、後は組手の中で突く時に勝手に
可動範囲を広げて突けるようになるものです。
小難しい理論に浸って
頭の中で「スゴイ突き」を出すよりも、実際に
目の前にいる相手の体目掛けてしっかり叩いた方が
絶対に早くうまくなれると思います。