以前に掲示板に質問されたものに答えたことですが、一般に空手を稽古されている方にとっても参考になるのではないかと思い、再整理してここに公開致します。
回し蹴りの蹴り足を
引くのか、
振り切るのかという点については、流派や指導者によって意見が分かれるところです。
一般的には
伝統派系の空手をしているところは
引きを取る場合が多く、
フルコンタクト系の空手では
引きを不要とするところが多いようです。
伝統派でもフルコンタクト系でも、引きを必要とする、または不必要とする
理由をはっきりと
わかって稽古している人は多くないようです。
単に「そう習ったから下の者にもそう教えている」場合がほとんどです。
もし現在、どこかの道場で習われているのであれば、そこの指導スタイルに従うのが一番ですが、ここでは、
鳳雛会でのやり方と
その理由について述べておきますので、自主トレなどをする際の参考にしていただければと思います。
「キックミットの持ち方」の項で述べていますが、振り切って蹴り抜くのは
ムエタイの影響からだと、私は師範から教わりました。
空手的な技術面から言えば、基本的には
蹴りも突きも引きを取るものです。
これは一撃で相手を倒せなかった場合に、二撃、三撃と連続して技を出す事を想定しているからです。
試割りをするのような場合は、振り抜いた方が一発の技に全力を発揮することができるので
引きは必要ありませんし、
力学的にも無理があります。
野球を例にして言うと、バッターが思い切りボールを叩くスイングで、ボールに当たった後に
引きを取るのは絶対に無理というものです。
野球の場合はワンスイングに全力を込めればよいのですが、空手の場合には連続して蹴りを出す事を考えなければなりません。ですから、
引きを取って
バランスを崩さずに
同じ体勢で次の技を出せた方がいいわけです。
空手の技として技術的に上達するために稽古を行うのであれば、単発で終わる蹴りではなく
連打のできる蹴りを稽古した方がよいと思います。
ボクシングのパンチでも、ワンツーの「ワン」のパンチは必ず引きます。
つまり
目的によって使い方が変わるので、その練習方法も変わるという事です。
回し蹴りの練習に
電灯から吊るされたスイッチの紐の先を蹴るというものがあります。この時に、蹴った
衝撃が無いのに蹴りを引き戻すのは
無理があるのではないかと言う方もいますが、これを私が指導するとすれば、やはり蹴った後に引き戻して同じ構えを取るように言います。
なぜなら、
蹴った衝撃がないからこそ
引きを取るのを意識して稽古できるからです。
連続して蹴りを出す場合には、いかに
早く蹴りを戻すかが重要になってきます。筋肉で言えばハムストリングの強度が重要となります。そして、引きに使う筋肉であるこの
ハムストリングが強くなくては、実は
強い蹴りは出せないのです。
これはボクシングで
強いパンチを打つには
背中の筋肉が重要であると言われるのと同じ理屈です。(詳しい説明は
「背中の筋肉」で)
空手の稽古で重要なのは、キチンと
自分の五体をコントロールして操れるようになる事です。
蹴りを出す時で言えば、狙ったポイントを
正確に蹴り、相手から
視線を外さず、バランスを取ったまま
次の攻撃が出せる体勢を保つ事が求められます。
また空手で使われる技の変遷から言えば、昔の空手では蹴り技は、
前蹴りと横蹴りくらいなもので、回し蹴り自体がムエタイから取り入れたものだそうです。
元々の空手にある、前蹴りも横蹴りも引きを取るのは容易ですが、
回転系の技に引きを求めるのは難しいと思います。けれども空手では上記のような理由から、回し蹴りも引きを取って使えるように技術を変化させたのではないでしょうか。
以上のことから、
鳳雛会では空手としての技術を上達させるために、
基本的な稽古では引きを取るのを中心に行っています。
また、回し蹴りで空蹴りをすると
膝を痛めないかと心配する方がおられるようですが、そのことについても説明しておきます。
全力で足を振り出して
膝が伸びた所で止めれば、
当然、膝を痛めます。
これは
突きでも同様であり、突きを出した時にはヒジを伸ばしきらず、
少し溜めた状態で止めると指導する所が多いと思います。
簡単に言えば、蹴りの引きを取る事で膝を痛めるとしたら、それは
まだ技術が未熟なのであり、
全力で蹴りを出すレベルにないということです。
まだ技術が未熟なうちは、ゆっくりしたスピードで
フォームを作っていく事と、振り出した脚部を止めて引き戻す
ハムストリングを強くすることが必要なのです。
まだハムストリングが弱いまま、その正しいフォームが身に付かないうちに思い切り足を振り出して蹴るから、
膝部が過伸展して
膝を痛めるのです。
自分が出した蹴りを
自分の意志で止められないという事は、技を
コントロールできていないという事です。
車と同様で、ブレーキを適切に掛ける事ができないのに、猛スピードで走るから止める時に事故を起こすのです。
自分の意志で
ブレーキを掛け、技を
コントロールし、連打が出せるような
レベルになればスピードを上げた蹴りを出しても
膝を痛めることはありません。
そうなれるように初めはゆっくりしたスピードで蹴りを出し、引きを取るフォームを作っていってください。