プレッシャー


息吹による解消法
少し前の話ですが、2007.10.6に放映された『解体新ショー』(NHK)『プレッシャーを感じるのはなぜ?』でプレッシャーを解消する方法が紹介されていました。

番組ではソフトバンクの名手である川崎選手がWBC(ワールドベースボールクラシック)で緊張のために固くなってエラーを連発した場面が流され、「プレッシャーで膝がガクガクした」という本人の弁が紹介されていました。

プレッシャーのかかった状態というのは、「失敗したらどうしよう」という雑念が頭に渦巻いて、慣れているはずの動作を行うプログラムがスムーズに流れなくなっている状態だということです。

これを解消するのに良い方法が「正しいため息」で、大きく息を吐くことでバランスが崩れた身体のシステムを整えることができるのだそうです。

さらに番組ではバスケ選手にプレッシャーをかけてフリースローの実験を行い、それまで緊張のために泳いでいた視線が、息を吐くことで急に安定したという結果を得ました。息を吐くという動作によって身体の力を抜け、緊張を和らげる効果があるということを実証していました。

正しいため息の方法として
口を閉じ気味にして「ぶるぶるぶる〜っ」と唇を震わせながら長く息を吐く
という呼吸法が紹介されていました。

これをすると、緊張によって崩れかけていた自律神経のバランスが整い、意識を集中させることができるというのです。
巨人の上原選手や、イチロー選手がこのような呼吸を行なっている映像を見せ、他の多くのスポーツ選手がこの呼吸法を行なっていると紹介していました。

私がなぜこの番組に注目したのかというと、ここで紹介されていた正しいため息の効果が、空手で使われる息吹と基本的に同じなのではないかと考えたからです。特に深呼吸は息を吸うことではなく、吐く方が重要であるという点において空手の息吹と同じです。
正しいため息の場合は、脱力して筋肉の緊張を和らげるのですが、空手の息吹の場合には三戦の型を行なう形で全身に力をみなぎらせ、筋肉を締めて息を吐ききる形を取ります。
一見すると筋肉の働かせ方がまったく反対のように思えますが、精神的な緊張が解かれ、自律神経のバランスが整い、意識を集中させることができるという点において同じ効果が現れていると思います。

もちろん精神的な側面にだけ注目すれば、心の緊張を取り除くために脱力して筋肉の緊張を和らげることは有効ですが、空手の場合、筋肉の緊張が解かれてしまっては役に立ちません。相手から打撃を受けることも考えなければなりませんから、筋肉をある程度は緊張させておく必要があります。
もちろんムダに力が入っていると「力み」となってスムーズな動きが妨げられてしまいますが、意識を集中できてさえいれば、空手の場合は力を入れておいていい場合もあります。

いわゆる「力み」とは本来必要とされる部分以外の筋肉に、無意識に力が入ってしまい、動きがぎこちなくなってしまう状態のことです。ですから力みを取るといっても全身すべてが脱力してしまっては意味がありません。必要な部分には適度な緊張が必要とされています.

リラクゼーションなどのために体を横たえた状態ならば、全身の力を抜くことも有意義かもしれませんが、空手だけでなくどのスポーツの場合にも、すべての筋力が脱力していては競技を行うことすらできません。動かす筋肉の拮抗筋に無駄な力を入れないようにすること。それは拮抗筋の力をすべて抜くわけではなく、主動筋と拮抗筋のバランスによって微妙な動作を可能にするということです。

正しいため息では、口を閉じ気味にして「ぶるぶるぶる〜」って唇を震わせながら長く息を吐くというやり方だったのが、空手の息吹では「カーッ」と息を吐き出してノドを震わせることが、「意識を集中させる」という点において同様の効果を生み出しています。

例えば、空手の場合は試割を行なう前に息吹を行う場合がよくあるのですが、これが番組の実験でやっていたフリースローの前のため息と同様の役割を果たしているわけです。

試割を行なう時には自分の持っている最大のパワーを発揮しなければならないわけですから、脱力したため息よりも息吹の方が効果的であるのは当然と言えるでしょう。

つまり、精神集中が要求されるだけでなく、同時にパワーも発揮しなければならない場面においては「息吹」の方が有効であると思います。

試割の前に行なう息吹は精神を集中させるためのものであって、単にカッコをつけるためにやっているのではないということが、今回の番組で明らかになったのだと言えます。(まぁ、カッコだけでやっている人も多いんですけどね。)


inserted by FC2 system