何のために習わせるのか


親の希望


その責任


 新年度になりました。学校などでは学年も一つ上がり、気持ちも新たに何か習い事を始めようと思っている人も多いと思います。

 空手においても新年度の始まりである4月には入門希望者が増える時期です。
本人自身が何か新たに始めようと思うだけでなく、親が子供に習い事を始めさせようというのも4月が一番多いように思います。

 親が子供に習い事をさせるのは、子供にこうあって欲しい、こんな大人になって欲しいという希望があるからで、親が子供に期待するものを身に付けさせるために、一定の費用を負担して習わせているのです。
 それが空手であったり野球やサッカーだったりするわけで、スポーツだけでなく学習塾や習字などの習い事も同じでしょう。

 親が子供に期待を込めて習い事をさせるわけですが、基本的には本人が希望するものをやらせたらよいと思います。けれど、子供の内はいろいろなものに興味が向き、またその適性などもわかりにくいため、いろいろな習い事を渡り鳥のようにやっていく子がいます。

 時間とお金に余裕があるならば、子供がやりたいと言うことをすべてやらせてやるのも親の愛情かもしれませんが、次から次へと新しいものに目が向いて、いろんなことを始めても習い事の時間が重なると、それらすべてやるのは物理的に不可能になります。
そうなると、やっては辞め、やっては辞めを繰り返し、結局何も身に付かないという結果になってしまいます。

 勿論、本人の適性や向き、不向きがあり、これ以上続けてやってもあまり意味がない、と思われるのであれば、別の道へ進むのもいいかもしれません。しかし、一つのことで成果が見えるようになるまでには、ある程度の時間を要します。
 また、本人にとってはそれが得意ではなくても、これだけは身に付けておいた方が良い、ということもあります。

 そのあたりのバランスは、子供が小さい間は親がよく見て判断してあげないといけません。

 で、空手の場合なんですが、基本的には本人がやりたいのでなければ、やる必要はないと思います。

 もちろん、やり続ける事で得られることには非常に大きなものがありますが、空手は肉体的苦痛を伴う分、ある意味、やる人を選ぶ とも言えます。それは身体的能力を言っているのではなくて、精神的適性と言えるかもしれません。

 簡単に言えば、痛くても頑張れるか、ということです。
誰でも殴られたり、痛い思いをするのはイヤなものですが、殴られるのはイヤだから

「殴られないように強くなろう」とするタイプと、
「殴られることから逃げる」タイプに分れます。

 現代社会は法治国家ですから、普通に社会生活を送る分には暴力を避けて生きていけばいいでしょう。たぶん9割以上の確率で、その方法で安全に生きていくことができると思います。
 けれど残り10%(もしかしたらそれ以上)の割合で、理不尽な暴力に出逢う危険があります。通り魔的な犯行や、夜の繁華街で因縁を付けられたりする可能性は誰にでもあるものです。そんな場合には自分で対処しなければ、どうしようもありません。

 だったら空手を習えばすぐにそれらに対応できるのかと言われれば、そう簡単なものではないのも事実です。けれども、そういった「戦闘モード」は、体験したことのある無しが身を守るのに大きく影響します。初めて人に襲われたりしたら身が竦んで動けなくなる人の方が多いのです。ですから、そういった状態をシミュレーションして体験し、対応できるようにしておくことは重要な事だと思います。

 けれど、親が子供に無理やりやらせても、本人にヤル気がなければ上達しないのは当たり前です。
 空手をやらせることによって、護身的な技術などの体力的な面のみでなく、礼儀などの社会的な規律を学ぶという点も確かにありますが、子供にも好みがあります。個人競技よりも団体競技が好きなどは性格によるものが大きいでしょう。

 また、人と実際に殴りあったりするのは好きではないという子もいます。
これはその子の個性ですから無理やり変える必要はありません。

 空手で培われる特性は、すべての人にとって有用なものだと思いますから、強制的にやらせるべきものかもしれませんが、現代では他の習い事をするチャンスはいくらでもあるのですから、別の種目で身に付けられることなら、そちらをやった方が本人にとっては気が楽です。

 空手は実際に相手を殴り自分も殴られるわけですから本人にとっては痛いものです。
 その痛さを乗り越える事で得られることもあるのですが、今の時代、わざわざ殴られて痛い思いをする必要はないかもしれません。
 肉体的に強くなることは昔ほど重要視されなくなり、腕っぷしが強いというのはそれほど評価されるものではなくなってきています。
 そういうことに向いていない性格というのもありますから、そんな子に空手をやらせても本人にとっては苦しいだけでしょう。

 他の種目でも言えることですが、特に空手の場合は相手を直接殴ったり蹴ったりするわけですから、真剣にやらなければケガに繋がる可能性があります。

 それに何でもそうですが、一緒にやるメンバーの中にヤル気のないものが混じっていると全体の士気が下がってしまいます。頑張ってやろうとしている子のモチベーションまで下げてしまうのはよいことではありません。

 稽古していてうまくできないことがあったとしても、本当に無理な事ならば「とてもできない」と思ってしまうのも仕方ありませんが、やればできることを初めから諦めてやろうとしない場合にはこちらも強く怒ることもあります。
 本人にヤル気があれば怒られたことで頑張ろうという気になるかもしれませんが、空手自体が好きでない子の場合は苦痛以外の何物でもありません

 指導する側にしても、その子をよくしていきたいと思いがあるから怒るのであって、初めから空手なんてどうでもいいと思っている子に対しては、怒ろうという気も起きません。
 ですからヤル気のある子が空手を習えばよいと思っています。

 けれども小さい子供の場合、親が習わせたいと連れてくるのがほとんどです。
 親が空手を習わせるのは子供への希望があってこそです。

 だから、一度習い始めた空手を辞めてしまうのも、本人の意志が何よりも重要なのですが、それを簡単に認めてしまうのか、それとも途中で投げ出すことをさせないのかは、親の姿勢に掛かっています。

 子供がイヤイヤやっていても辞めさせずに続けさせる親もいます。 それは上に書いたように、親がどういう期待を持って子供に空手を習わせているかに関わっているからです。

 一度始めたことを途中でいい加減に投げ出すようなことをして欲しくないということもあるでしょう。
 それに、何事も長く続けていれば、やっていることに対する気持ちの波もあるものです。けれど、辞めてしまいたくなった時でも、親が叱咤激励することで続けることができて、結果的にはそのおかげで挫折することなく目覚ましい成果を上げるレベルにまで到達したという話もよく耳にすることです。

 個人的には、空手がイヤならする必要はないと思っています。けれども無理やりにでも続けさせることで身に付くものがあるのも事実です。通り魔のような理不尽な暴力から自分の身を守るのに、自衛できる力を身に付けておくことは絶対に必要な事だと思います。

 結局は、親が何を求めているのか、子供にどういったことを身に付けて欲しいと思っているのかという事に掛かってくるのです。

 そして、それは親としての姿勢を問われていると言っても過言ではありません。 子供がキチンとした大人になれるよう、親が方向性を示してやるのは大切な事ではないでしょうか。

 この4月に新たな習い事を子供にさせようと思っている親御さんには、実は子供本人よりも、それをさせる心構えが要求されているのだと考えてもらいたいものです。


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