情報過多


説明し過ぎ


ネット時代の自主稽古
 最近はインターネットが発達したおかげでyoutubeなどで素晴らしい動画が簡単に見れるようになっています。
 トップ選手の試合の動画だけでなく、レベルアップのための練習方法や指導風景まで入れた解説動画も多くアップされていて、我々が空手を始めたころと比べれば一人稽古の時に参考になるものがとても多くあってうらやましい限りです。

 ネットサーフィンしている中でたまたま見つけた技術動画がとても分かりやすい説明だったりすると、自分の指導の参考にさせてもらっていることもあります。

 そういった動画を見ている中で、ちょっと気になる傾向があります。
 それは「説明のし過ぎ」とでも言った方がいいものものでしょうか。

 昔は「口伝口授(くでんくじゅ)などといって師から直接習うしかなく、そうやって教えられたものが最高のものであり、唯一のものでした。書籍などを見ても写真と説明だけでは実際にどのように動くのかがわからず、実際に習うのにはまったく及ばないものでした。

 ところがネットにはレベルの高い動きや、以前だとかなり上級者でないと教えてもらえなかった技や型がゴマンとアップされています。

 そして、とても自分にはできそうになかった技を「こうやったらできるようになります!」と懇切丁寧に教えてくれる動画もあり、指導者から教えてもらうまでは試してみることさえできなかった稽古が自分で取り組むことができるようになりました。

 いろいろな練習方法を知ることでどんどんできる技が増え、上達していってる人も多いので一概に否定するものではないのですが、それによって一つの技を充分にやりこむことが減っているように思います。

 自分で「これくらいできているかな」と思っていても、指導者から見れば不十分な点が目に付く場合があります。自分がもっと稽古をやりこんで上達していけば、その足りない部分がわかるようになってくるのですが、その時点のレベルでは自分で気が付くことができず、また、それを指摘されても修正できるレベルにない場合には、指導者は細かく言わない場合があります。

 直されないから「できている」のではなく、今の時点では「それでいい」レベルだと指導者が判断しているのです。
 なので、そのままで稽古していって自分でできているつもりになっていたのが、ある時、指導者からそのことを指摘されて、「もっと早く言ってくれればいいのに」と思うことがありますが、それはやっと「指導されるレベルになった」ということなのです。

 ところが、ネットで指導動画を挙げている人は、その最高レベルまで説明していることが多いのです。

 もちろん、ネットを見ている人の中にはその高いレベルの指導についていける人もいますし、大勢の人が見ている前提のネット上への公開ですから、細かい説明が必要なのはわかりますが、動画を上げている人の中には非常に勉強している人もいて、運動機能の説明が専門的過ぎるのではないかと思うものもあります。同じ意味で、細かすぎると言ってもいいでしょう。

 道場での実際の指導では、習う側のレベルに合わせて教える量をセーブした方が習う方もポイントをしぼりやすくて取り組みやすいことが多いと思います。

 そして、その段階でのレベルの技を繰り返し行うことによって、自分の技として身に着けることができるようになるのです。
 指導者はその身に付いたレベルの少し上の技術を指導することで、段階的に上達できるようにしているのです。これを一気にやろうとしても受け取り側の能力が飽和していると、十分に内容をこなすことはできないからです。

 こういった点から、指導は対面で行い、一対一で進歩の度合いを見ながら課題を与えていくことが本来のあり方だと思います。

 ネット上で動作の説明を細かく詳しく説明してくれているのはとても助かることも多いのですが、そこに専門用語を散りばめたりして何かすごい説明をしている感を出しているものがあったりします。
 やっている方は「どうだ、こんなにすごい(or 細かい or 丁寧な)説明をしているんだぞ!」と、ご満悦ですが、見ている方は「?」なものもよくあります。

 実際の道場での指導では、師範が、「何でか知らんけどこうやったらできるんや。」とか、「こういう風にやるんやと俺も師匠から言われたんや。」みたいなことが結構あったりします。
 非科学的と言われればそれまでなんですが、でも実際、言われた通りにやっていったらうまくいくことが多いのです。
 これこそ「口伝口授」の妙味というものでしょうか。

 レベルがもっと上がっていったら、教えられた「理屈」がきちんと理解できるようになるのかもしれませんが、上達していく過程ではそんなもんなんです。

 稽古を進めていく上で正しい理屈はもちろん必要ですが、何より実際に稽古を繰り返すことの方が重要ではないでしょうか。

 細かい説明はないよりあった方がいいと思われる方も多いでしょうが、知識として知っただけで必要なことを吸収したと思ってしまう恐れがあり、ほとんどの人は自分一人で学ぶよりも教えてもらった方が効率的です。

 更に言えば、一人でやってできるようになる人は素質、センスに恵まれた人であって、普通の人は教えられてもすぐにはうまくできないものです。

 直接教えてもらっても中々うまくいかないものが、動画を見ただけですぐにできるようになると考えるのは、ちょっと考えが甘いというものでしょう。

 多くの人は今の自分のレベルがどれくらいかを的確に判断できないものですし、それができるんだったら道場に通って指導を受ける必要はありません

 それができる人はそれだけである意味「天才」なんです。自分がそんな「天才」レベルにあると思えるのですか?

 TV番組などで、自分の考え出したすごい必殺技があるなんて人がプロ格闘家に挑戦してコテンパンにやられるというのがありますが、それと同じレベルの話で、それが「自分」だと気付き、ネットで得た技の知識だけでレベルの高い技ができるようになるという錯覚に陥ることなく、本当に上達したいのであればキチンとした指導者の教えを受けることをお勧めします。


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