上級者の稽古法
鳳雛会の稽古
意識の持ち方
鳳雛会の稽古は、実はちょっとハードだったりします。
特に大会前の選手稽古をやっていたりする時に、入門希望の見学者なんかが来たりすると、「とても自分には出来そうにありません・・・」と言って去っていってしまうことがありました。
鳳雛会は大きい団体ではないので選手コース専門のクラスはなく、初心者の道場生が稽古している横で、全日本大会を目指した選手がガンガンとミットを蹴っていたりします。
初めて見た人は
「こんなの私にはとても無理・・・・」
と思ってしまうようです。
当たり前です。大体、初心者のうちから全日本を控えた選手と同じメニューをやるわけありません。というか、できるわけありません。
鳳雛会の稽古はレベルに合わせて組まれるので、上級者になるほど難しく、試合を目指す者はそれに対応した稽古をしていきます。
各自のレベルに合わせているという事は、楽に稽古しているということではなく、自分のレベルとしては一杯いっぱいの内容をやっているという事です。
できないまではいかなくても、自分の持つレベルの一番上でやっているわけですからその人にとってはハードなものになります。全体で稽古している時にはレベル差がある者同士が一緒に稽古することになるのはしかたありません。
大切なのは、上の級の者が下の級の者と一緒に稽古している時に、同じ技を行なっていてもより洗練された技ができるようにしなければならないという事です。
たとえば、6級の者が5級を受ける為に稽古している技を、1級の者が一緒にやっているとすれば、同じ技でもより上のレベルでできるようにならなければいけません。
ある程度上級者になってくると、下の者の指導を任せる場合がありますが、それはもう一度自分の技術を確認させるためでもあります。
1級になった途端に2級でやっていたことを忘れたのではいけません。黒帯を取るまでに、それまでの各「級」のレベルで覚えたことは忘れず身に付けておかないといけないのです。
鳳雛会の稽古は技術の積み重ねになっています。ですから土台ができて初めて次の技術を上に積むことができるのです。
下の者の指導をしている時には、その技は既に自分はできていると思い込んでいるのでつい気を抜いてやってしまう。だから、自分のレベルが上がらないのです。指導を任された時こそ以前に覚えた内容を復習し、技術レベルを上げるチャンスなのです。
このことは級レベルの指導だけに当てはまるのではありません。試合向けのハードな稽古をやっている時にも数名でチームを組んでやっていると、どうしてもレベル差が出てきます。
その時に重要になってくるのが、そのチームの中で一番レベルの高い者がどれだけ頑張れるかです。
大会向けの稽古ですから、そのチームの中の一番下のレベルでもけっこうハードなものになります。だから一緒にやっていたら、自分にはまだ余力が残っているのに何だかすごく稽古しているような気になってしまうのです。しかし、自分の限界にまで追い込んでいないので、上のレベルの者にとっては大会向けの稽古にはなっていないのです。
まだレベルが低い者の限界に近い稽古をみんなでやっていれば、下の者のレベルは上がっていきますが、上のレベルの者は伸び悩んでしまいます。
一番上の者が自分の限界を更に上げる稽古をすれば、もちろん他の者はその稽古を同じようにこなすことはできません。しかし、横で見ている者はそれに触発されて頑張るようになり、結果として全体のレベルが上がっていくようになります。
それが「道場」という場の利点なのです。
意識の低い大学のクラブなどでは、下級生ばかりがしんどい地味な稽古をやらされ、上級生は技術的なことを流しているだけというのが見られますが、いずれ下級生に追い抜かれます。基礎の部分がやせ細っていくのですから当然です。
大学の中では上下関係が厳しいのでそれでもなんとかゴマかしておいて、最上級生の後は「引退」して後は口だけ出してればいいのですから何とかなります。しかし武道の稽古は一生続けていくべきものですから誤魔化しは通用しません。
それに上の者が稽古し続けていかなければ、後に続く者の目標がなくなります。
これは大会に向けた体力的なことだけを言っているのではありません。
年齢が上がると若い時より体力が低下していくのは当たり前です。そこで体力が落ちた分を補うような技術を身に付けていかなければならないのです。
これはある意味とても厳しいものです。
若者がガンガンとトレーニングすれば、それに比例して体力は向上していきますから、やった分だけ上達しているという実感が得られます。
ところが、技術的なことになるとガンガンやればいいというものではなく、考えて稽古しなければなりません。いくらやってもなかなか上達していないような感覚の中で、諦めずに稽古を続けていく意志の強さが求められます。
つまり上級者になればなるほど自分の稽古に対して厳しい姿勢が求められるということです。
というわけで、鳳雛会では組手においても型においても、そして当然基本においても上級者ほどハードでしんどい稽古をしなければならないようになっているのです。