ほっときゃ治る


自然治癒力


ケガと稽古の兼ね合い
 空手をやっていると、当然ながらいろいろと怪我をします。怪我をしてしまうとその間は十分な稽古ができないために気持ちが焦ってしまい、まだキチンと怪我が治っていないのに稽古を始めてしまって、怪我をしたところを悪化させてしまう事がよくあります。

 それで、「ケガが中々治らない・・・」とボヤくのですが、当たり前です怪我したところをまた使っているのですから。

 ケガをした時の対処は救急法などでいろいろとありますが、細かいテクニックなどはさて置き、何よりもまずは休ませる事です。

 けっこうひどい怪我であっても基本的にはほっといたら治ります自然治癒力というやつです。それなのに、完全に何もしないと筋力が衰えたり、柔軟性が失われてしまうのが怖くなって、ある程度良くなったらつい稽古してしまい、またケガを再発させるのです。

 大会の直前だったりで、ケガをした状態でも試合に出なければならない時には、テーピングなどで補助して強行する場合もありますが、それはあくまで急場しのぎに過ぎず、根本的にはキチンとドクターに診断してもらった上で治療をするべきです。

 医療技術は日進月歩なので、素晴らしく効果のある特殊な治療が行われる場合もありますが、「休ませる」に勝る治療はありません
 すべての治療は、人の持つ自然治癒力の手伝いをしているのに過ぎないのです。

 骨折したら、その治療は患部を固定し、折れた箇所にカルシウムが沈着して骨が再生するのを待つしかありません。機械のように折れたところをくっつけてすぐに元通りなんて事にはならないのです。

 けれど、軽いケガですべての稽古を休んでしまっては中々上達できません。ケガをしたらそこには負担を与えないように気を付けて、他の部位を鍛えるような稽古をするべきです。

 それなのに、ちょっと痛みが引いてきたから大丈夫だろうと普通に組手をして、また同じところを痛めたりするのです。

 で、結局は痛みが長引いて治るまでに時間が掛かり、その間はハードな稽古ができないため、上達が遅れてしまうのです。

 ところが、ケガをした状態としては100%の稽古をしているので、自分としては充実感があり、満足感も高いのです。だから、体が万全の状態の時の20%くらいしかできていないという事に気付けないのです。

 「自分はケガしているのに、こんなに頑張ってやっている」と思い込む、自己満足の典型です。
 自分では中々その事に気付けないので、指導者がキチンと指摘してやらないといつまでたっても上達しません。

 手を怪我したら足の稽古、足の怪我をしたら手の稽古をするべきなのに、痛めたところを使う稽古に手を出して、結局低いレベルの稽古しかできていないのです。

 ケガをしていないところに集中して稽古するのは、実はけっこうたいへんなものです。元気な時なら一ヶ所が疲れたら別の場所を使うことで疲労も分散し、気も紛れるのですが、ケガをしている所は使えないとなると、できる稽古が限られてくるので同じ稽古の繰り返しとなり、非常にしんどく感じてしまうものです。
 それを乗り越えて、怪我をしていない部分の稽古に集中できるのかどうかが上達への分かれ道です。

 学校のクラブ活動で強豪校と呼ばれるところの監督などが、ケガをしていても休むのを許さなかったりする事がよくあるのですが、学校生活の期間は限られていますから、ゆっくりケガが治るのを待っていたら、あっという間に引退の時期を迎えてしまうので、そんなに悠長に待っていられないというのも理解できます。だからこそ、休ませるか練習させるかの判断に指導者の眼力が表れるのです。  強豪校といわれるところは、監督が選手の状態をキチンと見分けているか、もしくは元々それだけの能力を持った選手だから残っているのかのどちらかでしょう。

 TVドラマのモデルにもなったある高校ラグビー部の監督は、選手がケガをしても医者に行くなと言っていたそうです。
 それだけを聞くと前時代的なスパルタ根性論のようにも思えますが、それだけでトップクラスの選手を育てる事はできません。恐らくは、上に述べたような事を経験的に知っていてそのような指導を行なっていたのでしょう。
 一流になる選手はケガをした状態で練習に参加しても、そこを使わず悪化させないようにして、別の部位の強化トレーニングやスキルトレーニングを行なうのです。

 けれど、限られた時間の中で怪我の治療その他の部位の強化を平行して行なうのには意志の力が重要です。
 学校のクラブならば監督に厳しく引っ張られて強くなる事も多く、そういう指導者が名監督などと称されたりもしますが、武道において人からの強制でいくら強くなってもそれほど価値はありません自らの意志で自分の稽古を見つめ、コントロールして強くなっていかなければ意味がないのです。

 空手は格闘技ですからケガは避けられないものです。全く痛みを経験しないで強くなろうなんて虫が良すぎます。痛い思いをせずに強くなれますなんて宣伝している道場もあるようですが、そんなものは生徒集めの宣伝文句に過ぎません。
 しないで済むケガならしない方がいいに決まってますが、身体を使うことなのですから全くケガをしないなんて事はありえないのです。野球やサッカー、ジョギングでさえケガをする事があるのですから、対人の格闘技ケガをしないはずがありません
 だからこそ、ケガをした時にその程度を自分でキチンと把握し、治るまでは無理をしない自制と、治るまでの間はケガをしたところ以外をしっかり鍛える克己心を持ち続けるのが武道を修練するという事ではないでしょうか。


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