体を動かすしくみ


「運動神経」改善


練習を重ねればうまくなる

 空手に限らずスポーツをしている人にとって「運動神経」の良し悪しはとても気になるところでしょう。その運動神経について毎日新聞の「スポーツの科学」という連載に「『運動神経』の改善」という題で記事が出ていました。

 一見すると、手軽なやり方で運動神経が良くなる方法かと思える注目を引く題ですが、最後の一文を読むと、「能力向上の鍵は、反復練習。つまり努力だ。」で結ばれています。

 「な〜んだ、繰り返しやらないとダメなんだ」とガッカリした人も多いかもしれません。しかし、その繰り返しの必要性科学的に知ることで、反復練習の意義を再確認できれば、単調になりがちな練習にも意欲が出てくるのではないでしょうか。

 いわゆる「運動神経」と言われるものは、身体を動かす神経細胞の集合体を指し、運動能力を向上させるとは、神経細胞の「シナプス」を強化することなのだそうです。
 脳が筋肉を動かす命令として出した神経伝達物質の受け渡しをスムーズに行うこと。つまりシナプスの働きを活性化させるためには、反復運動が効果的だと記事では述べています。

 わかりやすく言うと、脳からの命令が筋肉へスムーズに伝わるようにするには同じ動作を繰り返し行うことがよく、思った通りに身体を動かせるようになるのが早いと、「運動神経が良い」と言われるわけです。

 記事では「スプリントトレーニングマシン」と呼ばれる、「体幹深部筋」を上手に使えるようにするための器具が紹介されています。「体幹深部筋」とは、いわゆる「インナーマッスル」のことでしょう。そして、それをうまく使うためには同じ側の手足が同時に前に出る足の運び方を脳に覚えさせるのが必要だと言っています。

 スポーツ関係者ならピンときた人もいるでしょう。そうです、北京オリンピックの時に活躍した末次選手が取り入れて、少し前に流行と言えるまでもてはやされた「ナンバ」の動きです。「ナンバ」自体の説明は多くの書物が出ているのでここでは省きますが、それによってなぜ上達できるのかということが記事には書かれています。

 『脳が新しい動きや正しい動きを覚えることを妨げる「神経支配の縛り」を解くこと運動能力の向上には重要』だというのです。

 東大の学生を使った実験では100m走で平均0.5秒も早くなったとのことです。 元々走るのが得意でなかった学生は1秒以上改善したとあるので、それまであまり運動をしていなかった者がトレーニングしたから早くなっただけじゃないのか、と疑う人も多いかもしれません。
 しかし、11秒5よりも遅かった陸上部の選手が10秒9まで早くなったとあります。日本記録でもまだ10秒を切っていないことを考えると、100mを11秒台というのは「けっこう速い」選手です。それが0.6秒も記録を縮めたということは、距離にして5m以上の差を付けることができるわけですから、これはかなり成果があったと言えるでしょう。

 だからこそ「ナンバ」があれほど流行ったわけですが、東大で使っているようなマシンを持っていない我々はどうすればいいんだと思うかもしれません。しかし、その目的は「マシンを使う事」ではなく、「神経支配の縛りを解くこと」にあります。そして、その為には自分の頭でイメージした通りに身体を動かせるようになるまで繰り返し稽古することが必要なのです。

 神経支配というのは、それまで生きてきた中で、こういう時には体をこう動かせばいいのだと、それこそ体で覚えてきたことです。
 ところがスポーツなどでは日常の体の動かし方と異なる動きの方が「合理的」だったりします。たとえばスキーやスケートで右側に曲りたいと思った時には左足に体重を掛けるなどです。
 いったん身体がその動きを覚えれば自然とできるようになるのですが、慣れるまではうまくいきません。頭で考えて「こうだからこう体を動かせ」と一つひとつ確認しながら動くので、とても効率が悪い上にすぐに以前のクセが出たりして失敗します。
 「運動神経がいい」奴はあっという間にうまくなるので、自分とは違うのだと思いがちですが、おそらくは、小さい時に同じような体の動きをどこかで体験しているのでしょう。
 運動神経と呼ばれる神経ネットワークが形成されるのは2〜4才の頃だそうです。つまり小さい時からいろいろな運動を経験していた子が「運動神経がよい」と言われるのです。
 いわゆる「運動神経の良い」人を見ると「生まれつき違うもの」だと思いたくなるものですが、実は小さい時にいろいろな運動をしたことによって他の人より多くの神経ネットワークが形成されているに過ぎないのです。

 ですから、大人になってからも運動神経を良くすることはできます。
脳内に神経ネットワークを形成していけばよいのです。

 大人になってから脳内に神経ネットワークを作ってその動きを身に付けるためには、まずは頭で理論的に理解して、それを繰り返し行う中で覚えていかなければなりません。

 記事の最後にも次のようにあります。
「能力向上の鍵は、反復練習。つまり努力だ。」と。

 運動神経が良いと言われる人は、空手でもちょっと技の説明をしてやらせてみると、あっという間にそれができるようになります。
 もちろん筋力の強さや柔軟性によってできる技というのは限られてきますが、自分は「運動神経が悪いから」できないんだと諦めてしまう人も多いのではないでしょうか。

 けれど空手の稽古で大事なのは単に技ができるようになることではなく、実際にその技が「使えるか」ということにあります。相手と対峙した時に臆せずにその技を出せる気持ちを持っていなくてはなりません。

 自分でもあまり自信のない技だと、簡単に受けられてしまうのではないかとか、カウンターをもらったらどうしよう、などと考えてしまい、中々思い切って技を出せないものです。
 全力で相手と打ち合い、油断をすれば自分がやられてしまうかもしれない緊張の中で、出すことのできるのは「身に付いた技」しかありません。身に付いた技というのは体で覚えている技だということです。
 体で技を覚えていると自然にその技を出すことができます
 繰り返し同じ技を稽古して、自分が出したいと思った技を自然に出すことができるということが、つまりは運動神経がいいということなのです。

 大人になってから「運動神経」を良くするためには、「良いイメージと体をマッチングさせる」努力が必要になります。その為には、「繰り返し稽古を積む」しかありません。
要は「努力する」ということです。

 結局は、繰り返し同じ技を稽古できる人間が「運動神経が良い」ということになります。
諦めずにコツコツと努力を続けていきましょう。


inserted by FC2 system