間合いについて

組手を行なう中でもっとも重要なポイントは何かと聞かれた場合、私は「間合い」だと答えます。
どのような攻撃でも当たらなければ意味が無い。
どんなに切れのある上段回し蹴りも、すごく重いローキックも1cmでも離れて当たらなければ「痛くない」わけです。

「名人」と呼ばれる年寄りが襲い掛かる若手をバッタバッタとなぎ倒しているのを見て、
「八百長!?」「インチキだ!」
などと思ったことはないでしょうか。
もし実際に試合場に立ってルールに基づいて戦ったならば、まず100%この名人は勝つことはできないでしょう。しかし、その名人が若い現役選手を手玉に取っているのは恐らく本当です。
名人が若手をあしらっている映像を観ると、間合いを完全に見切っていることが見て取れます。

「見切る」というとギリギリで相手の攻撃を「かわす」というイメージが強いかもしれませんが、それだけでなく名人と呼ばれる人の動きには間合いを「ツブす」動きが見られるのです。

「かわす」動きはどうしても大きく逃げてしまいがちになります。逃げ過ぎずにギリギリでかわす稽古も、もちろんする必要がありますが「逃げる」ということ自体が本能的なものなので、相手からの攻撃をよけるという技術は心理的には難しくありません。

しかし、間合いをツブす動きは相手の攻撃を食らうという恐怖心を乗り越えて、相手に向かって一歩踏み出さなければならないので、稽古を重ねなければできません。そして、組手の中で相手を制するには、この前に出る動きの方が重要なのです。
※1参照


ただ単に相手の攻撃に合わせて間合いを詰めるだけで一番パワーの出るヒットポイントからはずれ、ダメージを少なくすることができます。更にその時に手や足を使って相手を止めればストッピングになり、それが攻撃になるとカウンターとなるわけです。

相手との間合いを作り出す技術が「運足」です。
間合いを取るその方向を古流では八方(前後左右斜め)としており、流派によってはその八方向すべてに別のステップを割り当て、技術体系に入れているところもありますが、鳳雛会では運足としては「送り足」、「踏み足」、「交差歩」の3つを基本としています。そしてその3つのステップに角度を付けていく事で八方向に対応させています。

組手の中で間合いを変える基本の動きは

「当たって変わる」です。

まず相手とぶつかるように動いてから変わる。最初から横に動くと相手はその動きについてくるが、まず前に出ることによって相手の動きを止める。真正面から打ち合うように見せかけてから横、斜めに角度を取ることでフェイント的な意味合いも持たせ、相手の攻撃の流れを一旦止めることで自分の攻撃を先に相手に当てるのである。
イメージとしては相手にぶつかってから「ズレる」と言った方が近いであろう。

※1
宮本武蔵作と伝えられる道歌に
切り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ一歩進めばそこは極楽 (同意異文あり)
というものがありますが、これが正にその境地と同じものです。剣の場合は空手のような素手の戦いよりも更に一歩踏み込むのは怖いわけですが、空手の場合も相手に殴られる、蹴られるといった攻撃からは逃げる方が本能的には自然な行動になりますから、攻撃から逃げる技術の方が心理的には会得しやすいと思います。

しかし、間合いを詰めて相手の攻撃を封じる、または先んじて攻撃をするとなるとそこにはまず恐怖を乗り越えるという前提がありますから、それを会得するのはそんなに簡単にできることではありません。まぐれ当たり的にカウンターが入ることはあっても、それを自分の持ち技として自由に使えるようになるには、相当に高いレベルの技術が求められます。
そういった間合いを瞬時に掴むことのできる人が「名人」と呼ばれる人で、先に書いた一見インチキに見える年寄りの10人掛けなども充分にありえることなのです。
(ただ素人目に見ても「さすがにそれは無いやろー!?」と 突っ込みを入れたくなるのもありますが・・・・)


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