効かせる下段回し蹴り

 たぶん他ではあまり言われたことのない、効かせることのできる下段回し蹴りを出せる理論を発表します。(少なくとも私は今までこの様に指導しているのを聞いたことはありません。)

 パワーのある下段回し蹴りを出している人はほぼ無意識にやっている事ですが、それを理論的に学ぶことでより効率的に強い下段蹴りを身に付けることが出来るようになるはずです。

 一般的に力強い蹴りを「重い」蹴りというふうに表現します。ここに下段蹴りを効かせるポイントがあります。

 蹴りの力を増大させるために単純に脚力を鍛えていたら、すぐに限界がきます。
ウエイトトレーニングをやっている人ならわかると思いますが、例えばスクワットで200kgならなんとか挙げることの出来る人が、260kgの重量を挙げるというのはまず不可能です。
 最大筋力を上げるトレーニングでは、それこそグラム単位で薄いプレートを増やしていきます。つまり筋力アップで蹴りのパワーを上げるのは実はとても難しいことなのです。

 腰から上への蹴りの場合は、筋力の強さを使って蹴ります。特に上段への蹴りはアゴを捉えるとKOを生んだりしますが、それは筋収縮の早さによって出される速い蹴りによって可能となります。ところが100m走でわかるように、筋収縮の早さというものは先天的なものが重要な要素を占め、努力でそれを上回ることはほとんどできません

 筋力自体を鍛えてパワーアップを図り、重い蹴りを出すのは上に述べたようにかなり困難である上、それだけの筋量を増やすには途方もない努力が必要なわりには、増える筋力の大きさは高が知れています。

 ところが下段回し蹴りに関しては、蹴りのフォームが重要となり、努力すれば「重い」蹴りを出せるようになるのです。

 今まで下段回し蹴りでポイントとして言われていたことは、相手の腿に対して垂直に蹴りを当てた方がダメージを与えられるというものでした。

 もちろんそれは正しいことです。ヒットする角度が90度からズレるほど、力が斜め方向に逃げて与えるダメージが小さくなります。
 むろん組手中の体勢によっては斜めに押し込んだりするような蹴りが有効な場合もありますが、「効かせる」ことを第一に考えた場合には垂直に当てる方が効果的です。

 構えた相手の腿は少し上向きに角度がつくので、垂直に蹴りを当てるには少し落とし気味に蹴った方がよいと言われます。しかし、落として蹴った方が効果的になる理由は角度のことだけではなく、「重い」蹴りを出すために重要なポイントがそこにあるのです。

 その理由は知らなくても、腿に蹴りを落とし気味に当てる事で「重い」蹴りを出せていた理由。それは、「重い」という感覚は重力が働いているから感じるものだ、ということです。

 だから体重がある人の場合には、その体重をぶつけるようにして蹴る方法も有効です。同じフォームで蹴っても体重のある人の蹴りは「重い」からです。

 だったら蹴りを重くするためにブクブクと太ればよいのでしょうか。筋肉で体重が増えるのならばそれに越したことはないのですが、フォームで蹴りを重くする方が早道ですし、それが技術の上達というものです。

 当然ですが、重力は上から下に働いています。ということは、下から上に力を加えるよりも、上から下に蹴った方が楽に蹴れるのは当たり前です。

 それに加えて、上から蹴りを落とすことで自分の体重を蹴りに載せる事が出来ます。
体重が60kgしかない軽量級の選手であっても自分の全体重を蹴り足に掛ければ、さっきの例で言えば、筋力増量では絶対無理な、自分の筋力に60kgプラスした「重い」蹴りを出すことが出来るわけです。

想像してみて下さい。
 自分の腿の上に60kgのバーベルシャフト30cm上から落ちてきたとしたら、どれだけのダメージがあるのかを。

 脛の外側には前脛骨筋が付きますが、脛の内側部分はほとんど脂肪は付きませんから、ほとんど骨が直接当たるといっても言い過ぎではないでしょう。
 その脛をバーベルのシャフトとして相手の腿に落とすのです。

 そして、単に落ちてきただけでもかなりのダメージになるところに、自分の筋力を加えて蹴り込むのですから、相当な威力の蹴りとなることは想像が付くでしょう。

 ポイントは如何に蹴り足に体重を載せるかということですが、ほとんどの選手が力を入れて蹴ろうとすると、軸足にも力が入って突っ張ってしまいます。

 中段以上の蹴りの場合は、蹴り足だけでなく軸足のバネを使って、伸び上がるように全身で蹴る方が威力のある蹴りを出すことが出来ますが、下段の場合は「脱力」が重要になってきます。

 蹴り足を抱え込んで膝を高く上げた位置から、軸足の力を抜いて身体が下に落ちるのに合わせて、蹴り足の脛に全体重が掛かるように蹴るのです。
そう、バーベルシャフトを相手の腿の上に落とすように。

 筋力で60kg以上のパワーアップは至難の技ですが、蹴りのフォームに気を使うだけでそんなパワーのある蹴りを自分のものとすることが出来るのです。

 もちろん脱力したままでは床に崩れ落ちてしまいますから、落ちていく体重を踏み留める筋力が必要になりますが、誰でも1m程度の高さから飛び降りても倒れずに踏ん張る事はできるでしょう。組手の体勢でならば落とす距離は30cmから多くても50cmくらいですから、タイミングさえ覚えれば誰にでも可能な技です。

 ただ同じフォームで蹴ったならば体重の重い人ほどパワーのある蹴りを出すことができますから、体重差というハンデ依然としてあります。

 しかし、無意識にこういったフォームで蹴ることができるのは才能に恵まれた一握りの人なので、意識してこれが使えるようになれば体重差のハンディキャップ充分に埋める事ができるようになるはずです。


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