大会主催者の方々へ


免責


大会での保険加入について

 最近は大会の数が非常に多くなっています。春から秋に掛けてはほぼ毎週大会があり、以前はオフシーズンのように考えられていた冬季にも多くの大会が開催されるようになりました。
 出場依頼の封書もたくさん送られてくるのですが、最近、記載をしている内容に少し気になる所のあるものが増えています。

 それは保険の加入に関するもので、
「試合に出るに当たっては各自が自分の道場でスポーツ保険に加入しておいて下さい」
というものです。

 昔から「大会主催者側は応急手当しか行なわない」という注意書きを添えている所は多かったのですが、「保険は自分のところで」などという記載がされるようになったのは最近の事です。

 各道場で保険に加入しておくというのは当然のことですが、だからといって大会主催者が参加者に保険を掛けないというのは非常に危うい傾向だと思います。

 負傷した場合の治療に各道場で加入している保険が使えるのは当然ですが、それがあるからといって大会主催者の責任が免除されるわけではありません。

 武道の世界では昔から「ケガの責任は自分持ち」が当然とされてきたのですが、世間一般の常識、特に法律上の常識はそうではありません。
 今のところ空手の大会で主催者が訴えられたという話をまだ私は聞いたことがありませんが、裁判になれば間違いなく責任を追及されることになります。

 小さい規模の大会では、参加者への負担を抑えるために大会用としては保険に入らず、少しでも出場費を安くしようとしている場合もあります。

 これが自流の内部大会であれば、道場で加入している保険でケガの保障をまかなえばよいのですから新たに大会用として保険を掛ける必要はないでしょう。

 内部大会であってもほんの数名、交流のある道場から参加者がいる程度なら、そちらの道場の保険で処理してくださいというのも仕方ない範囲だと思います。

 しかし、これが交流大会以上の規模になれば、大会用の保険加入絶対にしておくべきです。
 更に言えば、オープントーナメント形式で選手を募集し、けっこうな額の参加費を徴収しておきながら、「保険は各自で」などというのは無責任であり、もっと言えばセコいと思います。

 昔から、大会要項には「大会主催者は事故等の責任は一切負いません」と明記してあるものが多く、それを了承するサインもちゃんと取ってあると言われる方もいるかもしれまんが、法律的に見れば、そのような約義は全く無効なものです。それは武道の大会に参加する覚悟を確認しているだけのもので、運営している団体にご迷惑をお掛けするつもりはありませんという気持ちを示しているのに過ぎないものです。

 もちろん、空手の試合中に起こり得ると予想される軽微な怪我に関しては、空手の試合に参加している上で当然予想されることですから、それこそ「自分持ち」で問題は無いでしょう。けれど、大きな事故が起こった時や後遺障害が残るようなケガをしたなどの場合は、選手も「そうなるのは当然」と思って試合に参加しているわけではありません。訴えられたら間違いなく賠償責任を問われます。だから、そのための保険なのです。

 少し状況は異なりますが、プロ野球観戦中にファウルボールに当たった観客がケガをした時の裁判の判決の一部を載せておきます。


【試合観戦契約約款の免責条項】

 先ほどの「試合観戦契約約款」は、たとえ球団や球場側が責任を負うべき理由によって観客に損害が生じた場合でも、球団・球場側の故意または重大な過失によるものでなければ、賠償の範囲は治療費などに限定されるとしている。
 しかし、この規定は球団や球場側の損害賠償責任の相当部分を免除しようというものであり、信義に反し、観客の利益を一方的に害するものであるから、無効である。 (平成27年3月26日札幌地裁)


 どうでしょうか、「試合観戦契約約款」とはチケットの裏に小さい字で書かれている注意書きのようなもので、誰もそんなものは読まないのですが、球団側はこれをチケットに書いておくことで、球場へ野球を観に来る人はこの契約を了承していると主張しました。

 ところが裁判所は、「故意または重大な過失」があれば損害賠償に応じるという内容であっても「この規定は無効である」と判断しました。つまり、「故意または重大な過失」がなくても球団には賠償責任が生じるとしたのです。

 空手の大会で「一切の責任は負わない」などという但し書きが書かれていても、法律的には全く意味を成さないということは理解してもらえるでしょうか。
 法律の専門家でない私の説明では納得できないという人は、知り合いの弁護士さんにでも聞いてみたらよいと思います。キチンと専門家の意見を教えてもらえるでしょう。

 私が言いたいのは、大会を開くのなら僅かな保険料をケチってはいけないという事です。もし事故が起きて主催者に高額賠償を求められるような事が起これば、一般の人からすると、「空手は危険な競技なのに保険にさえ入ってないようないい加減な運営をしている」と見られてしまいますし、主催する側も起こり得る事故で高額賠償を請求されるとなったら誰も大会を開こうなどと思わなくなります。

 そうなると一般への空手の普及が進まなくなって、世の中に必要とされない競技だとされてしまいます。

 日本ではまだアメリカのようにすぐに訴訟を起こす事はないようですが、以前に較べると確実に「もらえるものはもらっておこう」という考え方をする人が増えてきたように思います。
 こちらは昔のままの感覚で大会を開いていても、万一の事故が起こった場合の責任は100%確実に大会主催者に掛かってきます。保険でそのすべてをカバーできるものではありませんが、入っておかないとその後の自分の生活が破綻する事にもなります。また事故の当事者になってしまった選手の方も、各自で入っている保険だけでなく大会で入っている保険からも支給があれば、とても助かるのではないでしょうか。

 卓球やゲートボールなど、それほど危険でないように思える競技でも、スポーツとしてやっていればケガをする可能性はあり、大会を開くならば保険への加入は当然のこととされています。

 そういった常識的な当たり前のことを空手でも積み重ねることが、世間での空手のステータスを押し上げていくようになるのではないでしょうか。

 大会を開くに当たって、「ケガをしても自分の責任で参加してくださいね」と出場選手に自覚を促す事はあってもいいとは思いますが、「保険は各自で入っておいて下さい」と言って参加選手に保険を掛けないというのは無責任過ぎると思いますし、大会を主催する者としては自覚が無さ過ぎると思います。
 武道の試合ですから、各自の責任に於いて試合に参加することを前提としながらも、近代スポーツとして大会を開いているのなら、保険には入っておいて、何かあった時にはその保険を活用して参加者を助けてあげるべきだし、また、運営する側を守るという意味においても、大会を開くのであれば保険への加入は絶対条件ではないかと思います。


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