率先垂範


トップのさりげない行動から
 某大手団体の主催する県大会に行ってきた時の話です。
 その大会は午前中に各部の準決勝までと一般部の予選を行い、昼から開会式をして各部の決勝戦と一般部のベスト8以上の試合を行なうという段取りでした。
 午前中はフロアに5コートが設置され、芋の子を洗うようにごった返していました。そんな中で正面に据えられた本部席にはまだ来賓もまだほとんど居らず、他にも数えるくらいの人数しか座っていませんでした。

 普通、大きな団体のトップの人間は、忙しいこともありますが、地方大会には代理の人間が来ている事も多いものです。全日本大会であっても開会式の時間になってから本部席に現れる場合がほとんどです。
 ところがその団体のトップの方は朝の予選から一番前の席に座り、ずっと大会の進行を見守っていました。
 それだけでもたいしたものなんですが、さらにすごいと思わせる出来事がありました。

 本部席に座っているその方の携帯電話に着信が入ったようで、携帯電話を取り出したのですが、さっと立ち上がって本部席の後まで歩いてゆき、立ったままで会話を始めました。
 当たり前といえば当たり前のマナーなんですが、まだ朝の予選中でごった返している会場で、回りにそんなに人もいない中、そういう当たり前の行動が取れるところにその人のすばらしさがあります。
 これが昼からの本戦の最中だったならば、そういった行動が取れない人物は社会のマナーもわからぬお山の大将に過ぎないと軽蔑の対象になるところです。しかし、その団体のトップであることや会場の混雑した状態から考えても、誰もそんなにおかしいとは思わないだろうし、実際、席に座ったまま会話していてもそれほどひどいことではないのかもしれません。

 しかし、その人はたとえ予選であろうと本部席に座ったまま携帯電話で会話するのはマナー違反であるという感覚を持ち合わせており、試合している選手に対して、また空手の大会自体に対して敬意を忘れなかったということなのです。

 側に座っていた人間でさえもその行動に気付いていた人間は、おそらくほとんどいなかったのではないでしょうか。行動は目に見えていたとしてもその意味することにまで思いが到った人物はいなかったように思います。
 それだけその行動はさりげないものでした。
 私はたまたまそれを目にする機会に恵まれたのだとも言えます。

 実は、私は彼が現役選手の時にファンに対する態度をすぐ側で見ていたことがあるのですが、その時にも実に真摯に対応されていました。
 それ以来、私は彼のファンなのですが、今回、彼の行動を見て、やはり彼の人間性はすばらしいものであると断言できます。

現役時代の実績はもちろん、人格面でも大きな組織のトップとしてふさわしい人間だと感じるのと同時に、なぜその立場に祭り上げられてしまったのかと不思議に(残念に?)思う気持ちも混在しています。
内部の細かい事情はわからないのでなんとも言えませんが・・・。


 また、その大会の運営には各支部から何人も協力にきており、世界チャンピオンや日本チャンピオンが審判をするというだけでも贅沢な大会と言えるのですが、女子部の現役チャンピオンが来賓へおしぼりや飲み物を出したりといった手伝いを笑顔でこなし、後片付けまでテキパキと行なっている姿を見て、このトップにしてこの選手ありというのを、空手の技術だけではなく、人格の育成面でも感じさせられました。

まぁ、これは個人的な性格にもよるんでしょうけどね。


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