最近は試合時間に合わせた戦い方をする選手が増えてきました。選手同士のレベルが上がった事もあり、本戦では相当な差がつかなければ延長に入るのが当然で、再延長、決勝では再々延長まで行なって、最終的にマスト判定(必ずどちらかに挙げる)というのが増えてきました。
以前は最終延長で引き分けの場合、体重判定を採ることが多かったものです。顔面無しのフルコンタクトルールにおいては体重の差が試合内容に及ぼす影響の大きさに直結するという事が周知の事とされていたからです。
ところがあまりに体重判定による決着が多くなると、勝つ為には稽古するより減量した方がいいんじゃないかとさえ言われたりしたものです。
元々背が高く、身体の大きいものにとっては
逆差別的に不利なルールとなってしまい、せっかく高い能力を持っているのに勝ち上がれない選手が出てくるようになりました。観客からしても、
試合内容ではなく体重計に乗って勝敗が決まるのは、見ていて面白いものではありません。
そこで、僅かな差でも技術内容や攻勢の差などで判断をつけようというのが
マスト判定の本来の主旨です。
ところが、マスト判定を採る大会が多くなると、試合の最後30秒だけに賭けてラッシュする選手が増えました。判定での印象を良くするためです。
そのラッシュが相手を倒すためのものなら何の問題もないのですが、ただ単に
「攻めている状態」を
見せているだけなのが問題なのです。
もちろん、試合の最後までスタミナを持たせてラッシュを掛けられる
持久力はたいしたものですが、
100発叩いても効かないパンチより、
一撃で相手を倒す技を出して欲しいと思うのは私だけではないでしょう。
とにかくラスト30秒、技を出し続けて相手を押し下げた方が勝つ組手は、以前にこのコラムで、少年部の
「紙相撲空手」として私見を述べましたが、ラスト30秒のラッシュの多寡で優劣を下す今の判定基準が続く限り、一般部においてもこの傾向はまだしばらく続くだろうと思います。
こんな戦闘スタイルで勝敗を決める判定なら、ろくな攻防もせずダラダラと本戦、延長、再延長と続けずに、
初めから本戦2分で
マスト判定にしたらよいのではないでしょうか。
しかし、ルールに文句を言っても始まりません。自分にだけ不利なルールが設定されているのではなく、
参加者全員がそのルールで戦っているのですから。
では、このような組手スタイルの相手に対し、どのように対抗すればよいのでしょうか。
自分が相手より回転の早い攻撃を休まず出せるのならば、それが一つの対策にはなるでしょう。しかし、空手本来の技術から考えて、そんなやり方で勝ち上がったとしても
それほど自慢できる事ではないように思います。
答えは
基本の中にあります。
空手を習い始めた最初の頃を思い出してください。
相手から突きや蹴りで攻撃されたら?--------------そう、
受けるんです。
フルコンタクトルールに慣れてくると効かない攻撃は受けるに値しないとして身体で受けてしまう者が多過ぎます。
もちろん、古来から空手の鍛錬で、身体を締めて突き蹴りを跳ね返すくらいに鍛えるやり方もありますが、いくら効いていなくても、打たれっぱなしで
試合に勝てるワケありません。自分に当たらない攻撃は受ける必要ありませんが、多少なりとも「当たる」という事は、それが顔面だったら効かされてしまう事もあるのだと思わなければいけません。
試合はスポーツとして行なっているとは言っても、顔を殴られるかもしれないとか、相手が刃物を持っていたら、など、
武道的に忘れてはならないことがあるはずです。
単に可能性を想像するだけでなく、実際にそう思って稽古に取り組めば、ラストのラッシュに対する対抗策にも自然と方向性が見えてきます。
「攻撃は最大の防御」というのは事実ですが、その攻撃がお互いに効かせる気のない手数を出すだけのものなら、意味がありません。
相手の攻撃は「受ける」のです。
しかし、それが基本の受け技のように一本一本すべてを受けようとしたら連打を受け切ることはできません。「受ける」ということは必ず
後手に回るからです。
だったらどうするのか。
そのための技術が
「交差法」、簡単に言えば
相打ちです。
相打ちですが、相手の攻撃はブロックして自分の攻撃を当てるのです。
ブロック&カウンターといった感じでしょうか。
ブロックで相手の攻撃を受け止め、同時にカウンターで技を出す事によって相手の連打を止めるのです。
受けずに相手の攻撃をもらいながら反撃しても威力は半減してしまいますから、効果的ではありません。まずは
キチンと受けるべきです。
そして、受けてばかりだと上で述べたように後手に回ってしまうので、カウンターの攻めと合わせるのです。
カウンターで出す技は、連打を止めるための攻撃ですから軽い技ではいけません。
一発で効かす、若しくは
相手を下げる威力がないと意味がありません。威力のない技は相手の連打を止められないのですからカウンターになりません。そうなると、数多く出して攻めたように見せかけるしか勝つ方法が無くなるのです。
スポーツとして試合に勝つことだけを考えれば、そんなラッシュを30秒間出し続けるトレーニングも大切ですが、
武道として価値があるとは思えません。
手数、足数も重要ですが、
効かせて勝つ、更に言えば
倒して勝つ空手を目指して欲しいと思います。
では、具体的にどういう技を使えばいいのでしょうか。
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「ラスト30秒の連打を止めるには」に続く