声に出して


気合を出す


強くなるために

 当HPの「空手技術論」→「基本技術編」の中で「気合について」述べていますが、「気合を出す」ことの効果についてもう少し詳しく述べてみたいと思います。

 「気合について」でも述べていますが、「気合を出す」ことと「声を出す」ことは同じではありませんが重なるところが多分にあります。

 そして「声に出した」方が、「声を出さない」よりも大きいパワーを発揮できることが科学的にわかっています。
これは心理学で「シャウト効果」と呼ばれるものです。

 全力で力を出そうとした時に脳が筋肉を抑制します。それは100%を出し切ってしまうと筋断裂を起こしてしまうからです。そのため、自分では全力のつもりでも70%くらいしか力が出せていないそうです。

 普段から100%に近い力を出していると筋肉や靭帯を痛めてしまう危険が大きくなるため、普通の人は本当の限界のかなり手前で制限が掛かるようになっています。
 ところが声を出すことで脳の抑制効果が取れて10%くらい力が上がるのだそうです。

 火事場の馬鹿力と呼ばれるものは緊急状態にそのリミットが外れて、普段出せない力を出せているのに過ぎず、超能力のような不思議なパワーが出ているわけではありません。  自分の意思で「火事場の馬鹿力」に近い能力を発揮できるようにするために、「声で出す気合」が重要な役割を果たすのです。

 声を出すだけで技の威力が上がるのなら、しっかりと気合を出した方がいいと思いませんか?恐らく、昔から経験的にそのことが知られているので、稽古で「気合を出せ!」という事が言われてきたのだと思います。

 ところが最近の大会では「大きな声で気合を出す」選手が少なくなってきました。その理由は人によって違うのでしょうが、声を出さずに「シュッ、シュッ」と息を吐いている方がスマートに見えてカッコいいと思っている人がいるようです。

 ボクシングではマウスピースを嵌めるので口を開けて声を出しにくいという事があり、練習ではそのような呼吸の仕方をしています。

 しかしK-1をリングサイドで見たことのある人ならわかると思いますが、選手がフルパワーの攻撃を仕掛ける時には、それこそ吼えるような声を上げています。これは普段の軽いミット打ちなどの練習風景を見ているだけではわからないことです。

 それに声で気合を出さない方が楽なのです。なぜなら、「声を出す方がパワーが大きい」ということは、声を出さずに少ないパワーしか出していないのですから楽なのは当たり前です。バテないようにするためには楽に動ける方がいいように思えますが、いくら楽であっても技のパワーが下がっているとしたら意味がありません。

 また最近の大会では試合が本戦で決まらない事を見越し、初めから延長を考えて試合をする選手が増えています。その為、本戦では体力を温存して、いわば「適当に」組手をするため、声を出さない方が疲れないのです。

 試合のスタイルに合わせた弊害と言えるでしょう。

 試合の為だけに空手をしていて、試合で「勝つ」ことだけを考えれば、いわゆるペース配分という事も大切かもしれません。
 ボクシングなどは3分12ラウンドもある為、最初からラッシュを仕掛ける選手はほとんどいません。(往年のマイク・タイソンは違いましたけどね)

 けれど、空手修行の一貫として試合しているという意識があれば、延長戦まで待ってから勝負を決めようなどというのは、小賢しい考えだとわかるはずです。

 空手は「一撃必殺」を目指して技を磨き、不慮の暴漢に襲われた時などに相手を瞬時に制する護身的な要素が無くてはなりません。
 もちろん試合はルールを決め、その中で優劣を競うものではありますが、そのルールの中だけに縛られてしまってはいけません。

 試合になれば本戦から相手を倒すつもりで全力を発揮するべきです。その為には、連打の中でも決め技を出す時には大きな声で気合を掛ける事で、大きなパワーが出せますし、更に、声を出すことで体幹が締まってエネルギーが先端に行きやすいという効果もあるため、相乗効果で技の威力が大きくなります。

 普段の稽古の時にも、しっかりと声に出して気合を掛ける事でパワーのある技を出すことができます。そうすると稽古の質が上がり、自分の限界が上に伸びます。限界が上がると更にハードな稽古ができるようになり、その繰り返しで上達していくことができます。

 声を出さないということは自分の全力の低い位置でしか稽古していないことになり、中々自分の殻を突き破ることができません。

 それに声に出して気合を掛けることで自然と息を吐くことができます。組手の最中などに緊張して息を詰めてしまっているのをよく見かけますが、それだとすぐに息が上がってしまいます。常に呼吸と技をシンクロさせることで動き続けることができるのです。

 また、「プレッシャーの克服」の中でも述べていますが、息を吐き出すことは緊張をほぐすのに役立ちます。
 大きな声を出すことで息を吐き出すことになり、それによって緊張がほぐれ、そうすると当然ながら体の動きも良くなりますから、プレッシャーに弱い人は意識して大きな声で気合を出すのも良いと思います。

 更に護身的な面でも大きな声を出すことが役に立ちます。 危険な目に合いそうになった時に、助けを呼ぶのには当然大きな声を出すことが必要です。声ぐらいその時になれば出せると思っている人も多いようですが、暴漢に襲われた時に多くの被害者は恐怖のあまり声も出なかったと言います。その時に大きな声で助けを求めることができれば、被害を最小限に抑えることができます。それなのに助けを呼ぶことができないから大きな被害を受けてしまうことになるのです。
つまり、
声を出すというのにもトレーニングが必要なのです。

 特に大きな声を出すのが苦手な気の小さい子供や、普段大きな声を出すことがない女性などには必要なことではないでしょうか。

 特に女性の場合は、生理学的に「全力を出す」のが難しいそうです。詳しい話はまた別の機会に譲りますが、人間の身体の仕組みとして女性は子孫を残すために無理はできないようになっているのだそうです。子孫を残すためには有利な体の仕組みですが、トレーニング効果を挙げるのには少し時間が掛かります。

 ですから自分が感じる限界を上に引き上げるために、声を出して稽古をするというのはとても合理的なやり方となります。

 男女問わず、自ら声を出していく事でモチベーションが上がります。そしてしんどくつらい稽古であっても、全員が大きな声で稽古している道場は活気があってそれに引っ張られて稽古に励みが出ます。

 初めの内は大きな声を出すのに気恥ずかしい気持ちがするのもわかりますが、せっかく空手をしているのですから、いいこと尽くめ「声を出して気合を入れる」のをやらない理由はありません。自ら率先して声を出し、稽古の雰囲気を盛り上げ、更に自分も上達できるように頑張るべきではないでしょうか。


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