変わったことをするよりも


稽古、稽古

私の師範はその世界ではかなり有名な方で、現在はアメリカ在住なんですが、日本に戻ってこられた時に講習会を開いて、日本全国から人が集まって合宿が行われたことがありました。

師範から直接指導を受けられるというのはなかなか無いことなので、多くの人が集まり、夜の食事の後、ミーティングのような形で質問を受け付けてくれたことがあります。

最初はみんなここぞとばかりに手を挙げて、いろいろな質問をしていました。
「〜〜の突きはどうしたらいいんですか?」
「〜〜の蹴りはどうすれば上達しますか?」

等々・・・

それに対する師範の答えは決まってこうでした。

「それはねぇ、 稽古稽古だよ〜。」

質問する側からすれば、普段なかなか上達しない技について、どんな素晴らしい方法を教えてもらえるのかと期待に胸を膨らませて耳を傾けているのに
答えは「稽古稽古」です。

個々を相手に指導してくれる時には「ここをもうちょっとこう」とか、具体的に教えてくれるのですが、一般的な技の上達についての質問になると「稽古を繰り返し重ねる」としか言いようがなく、何よりも稽古を繰り返すことが重要だと考えていたんだと思います。

しかし、どの質問に対しても答えは「稽古稽古」なので、しまいには質問する人がいなくなってしまったのにはちょっと笑ってしまいました。

せっかく遠くから来て質問しているのに、上達するための方法が「稽古」というだけではあまりにも可哀そうだと思ってくれたのか、横で聞いていたもう一人の師範が苦笑いしながら、具体的にはどうすればよいのかを替わって説明してくれました。

こちらの師範は天才と呼ばれ、その技の切れと空手理論の確かさにおいて右に出るものはいないと言われた方です。

どの技も稽古を重ねて身に付けなければならないのをわかった上で、技術的にどうすれば上達できるのかということを説明してくれました。

これがまたポイントをよく捉えたもので、聞いていて「なるほど、そうやればいいんだ。」と、感じさせてくれたものです。

これらの話は内容が素晴らしいものだったので、取材に来ていた空手雑誌などで特集記事になったりしたものです。

しかし、雑誌の記事として載せるのには、目から鱗が落ちるような斬新な話の方がいいとしても、それを身に付けて使えるようになる一番の近道は、やはり「稽古稽古」なんだと思います。

少し経験が増えてくると、どうしても早く上達する方法というものに気持ちが気が引かれてしまうものです。もちろん無駄な稽古に時間を掛ける必要はありませんが、何より大事なことは繰り返し稽古を続けるということだと思います。

倦まず弛まず稽古を積んでいきましょう。


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