ルール私見


少年部での上段膝蹴り


そんなに危険か?
 空手の稽古において試合(大会)の果たす役割は大きいものがあると私は思っています。自分の稽古してきたことがどれほど使えるものなのかを実際に試し合う場であり、また試合に出る緊張に打ち勝つ精神的鍛錬の場ともなるからです。

 試合を行なう為には共通のルールが必要であり、同じ条件の下で競い合うからこそお互いが安心して競技できるのです。

 しかし、ルールが細かくなる事で空手本来の技術が制限されてしまうというマイナス面もあります。ルールは選手の安全面と試合進行の円滑さなどを総合して勘案し、選手のレベルや年齢によって禁止技、反則技などが決められています。

 直接打撃制と言われるフルコンタクト空手ルールでは、手による顔面攻撃は禁止という部分が最大公約数的に採用されており、その他の部分に主催団体の主張はあっても年齢やレベルによる微調整の範囲にあるようです。

 初期の頃は間合いが近付いたり、引きのない突き蹴りが出された場合には掴んで投げる事もルール内であったものが、最近は純粋な突き蹴りのみを有効技として、掴みや押さえは一切禁止にしている大会が多いようです。

 そういった中で、空手は文字通り素手素足で戦うというイメージだったものが、今では級や年齢が低い選手の安全のためにサポーター類の着用を必須としている大会がほとんどです。手足のサポーターやファールカップに加えて、少年部や初心者クラスでは試合時にヘッドギアを着用させる場合も多くあります。

 最近はヘッドギアの前面にキャッチャーマスクのようなプラスチックや金網のカバーが付いたものがよく使用されるようになってきました。
 私自身は前面にマスクの付いたヘッドギアを使用することには賛成ではないと、ずいぶん以前にこのコラムで述べましたが、ヘッドギアを顔面へのダメージを軽減させる目的で使用するというのも、それはそれで非常に有効な防具であると言えます。

 稽古時や試合時にヘッドギアを使用させている先生方も、多くの場合、目的としているのは顔面へのダメージ軽減です。
 しかし、本来フルコンタクト空手の場合のヘッドギアは、転倒時に頭部を保護するのが最大の目的であると思います。

 もちろん、顔を直接蹴られる事から考えるとダメージ軽減に役に立たないわけではありませんが、アゴに蹴りをもらった時に脳が振られることに対しては、ヘッドギアを付けていてもほぼ意味がないと言ってよいでしょう。
 けれども試合の進行や選手の顔面へのケガの予防から、前面にカバー付きのヘッドギアを使う傾向は続いていく事でしょう。
 私自身はこの傾向に賛成ではないのですが、時代の趨勢は変わりそうにありません。

 そうなると、又、別の問題が生じてきています。いわゆる「頭付け」です。

 ルールで顔面への手による攻撃がない上に、前面にマスクが付いている事で、多少自分の顔に当たってもダメージがないため、頭を下げて相手に密着して攻めるスタイルの組手が出てきました。頭を下げて突っ込むのがルールで禁止されるようになると、今度は顔を上げたまま前に出て相手に密着する組手スタイルに変わってきました。
 お互いのマスク同士をカツンカツンとぶつけながらも前にまえにと出て攻める選手が勝ち進むようになってきたのです。
 なぜなら、今のルールでは後ろへ下がると判定で不利になるからです。頭を下げて出ると「頭付け」で注意を受けますが、顔を上げたままだとマスクが相手に当たるほど接近していても審判は反則を取りにくいものです。
 それでも前に出なければ負けになるので、技を出す事よりも前に出ることを優先する選手が多くなるのです。

 この現状を打開するには、更なるルール改正が必要だと思います。そして、それは密着を禁止するというような戦法を制限するマイナス方向のルール改正ではなく、技の範囲を広げる形で攻防を活性化させる方向で行なうべきです。

 空手本来の技術で言えば、密着すれば掴んで投げるという技術があるのですが、現在の打撃を優先させる判定基準から、昔のように掴みを認める方向には戻らないでしょう。

 ではどうすればよいのか。

 私は上段の膝蹴りを解禁するべきだと思います。

 現在でも一部の大会では上段膝蹴りを認めているところはありますが、上段への膝蹴りはダメージの大きさから一般上級クラスでしか認められていない大会が多いようです。けれど、顔面にマスクの付いたヘッドギアを使用するのであれば、禁止にする必要はないと思います。

 フルコンタクトルールにおけるヘッドギアは転倒時に頭部を保護するのが本来の役割ですが、前面にガードの付いたものを使用するなら、顔面への打撃によるケガを大幅に減らすことができます。

 それに掴みが禁止になっていれば、掴んでの膝蹴り当然禁止です。頭部を抱え込んでの膝蹴りは衝撃が逃げないのでダメージが大きくなり危険ですが、現在のフルコンタクトルールでは掴んだり、投げたりするのは禁止なのですから、上段膝蹴りのダメージは回し蹴りがクリーンヒットした時と比べてもそれほど大差ないものだと思います。

 上段への蹴り技は当たれば技有りにしている大会が多いのですから、接近した位置からでも一瞬の体捌きでヒットさせることができる上段膝蹴りが解禁になれば、密着して展開の無い戦いになるのは減るのではないでしょうか。

 反則が無いのを競う試合よりも、互いの技の攻防で勝ち負けが決まる試合の方が、スポーツとして見た場合にもよっぽど素晴らしいものではないでしょうか。

 誰が見ても試合の攻勢がわかる方向に大会ルールが変わってゆき、技を制限するのではなく使える技を増やす事で、流れを止めることなく試合が進むようになれば試合自体も盛り上がりますし、出場する選手の技術も伸びていくようになると思います。


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