子供は


親のために稽古する


誰の為に稽古するのか?
「稽古わァ、 自分のためにするもんだろーっ?」

 気の入っていない稽古をした時に、私の師範はこう言って叱責されていました。
 稽古は自分が強くなる為のもの、この当たり前のことを忘れている人がいったいどれほどいることか。特に、子供にとってはそれほど当たり前のことではないんですよね。

 子供は、一生懸命やっている自分を見て喜んでいる親の為に頑張っているのです。

 「イヤ、そんな事はない。ウチの子は自分から『強くなりたい』と言っている!
 もちろん自分が強くなる事を願ってはいるのかもしれませんが、ほとんどの場合は「そう言って頑張っている子供」を親が一生懸命に応援しているのを見て、子供はもっと親を喜ばそう、もっと頑張ろうと思うのです。

 考えてみてください。空手が上達して大会で入賞しても、親が喜んでくれない家庭の子供が何年も頑張り続ける事ができるものなのかを。
 自分自身の成長がうれしく感じられない事はないのでしょうが、それでも親の応援がなければ、自分一人の中で「自分の為だから諦めずに頑張ろう」なんていう子供がいるものでしょうか。
 子供が空手を続ける理由としては、「親が行けって言うから」とか「親が試合で勝つと喜ぶから」というものがけっこう多いのですが、子供の間はそれでもいいと私は思います。
 女子レスリングで、オリンピックでの3大会連続の金メダルを含めた世界大会を16連覇し、国民栄誉賞まで受賞された吉田沙保里さんでさえ、子供の頃はレスリングを辞めたかったが親に辞めさせてもらえなかったから続けたのだと言っていました。

 「本人のヤル気が第一ですから」なんて言って、子供の自由に任せていたら国民栄誉賞をもらう吉田沙保里はいなかったことになります。

 子供の間は「自分のため」ではなく、「親のために頑張る」でもいいのです。

 そうやって続けていく事で、大人になっていく中で精神的に成長し、「自分のため」に頑張れるようになっていくのです。
 だからこそ、そのために親は子供を応援し、フォローしてやって欲しいのです。

 けれど、大人になっても自分が成長する為ではなく、何か他の事や他人の為に頑張っている人がいます。
 これも自分が頑張る材料の一つとして活用しているのならいいのですが、そちらを目的の中心にしてしまうと間違った方向に進んでしまうことになります。

 稽古は自分のためにするものです。その過程として大会や昇段・昇級審査があり、回りの応援を励みとして頑張る事ができるのです。
 大会で優勝する事や級や段を取ることが最終目的ではありません。

 ところが大人になってもこのことに気付けない人が多くいます。
 試合で勝てなければ意味がない。級や段が上がらなければ意味がない、そんな風に思っている大人がなんと多い事か。時には指導者までもが率先してそんな風に道場生を指導しているところもあります。

 大会で勝つのも、昇級、昇段していくのも、自らの修行の一里塚としての頑張った目印に過ぎないものです。長く稽古を続けていくために、スモールステップの目標としてはとても意味のあるものなのですが、それを目的としてしまうと武道ではなくなってしまいます。

 小さい目標の達成を繰り返すことで、本来の目的である人間形成・自己実現へ向かうことができるのです。だから、試合に勝ったとか、昇段したという結果が目的なのではありません。あくまでもそれはステップに過ぎないのです。試合に負けても、昇段するのに時間が掛かっても、そこを目指して努力していること自体が重要なのです。目先の小さな階段(スモールステップ)を昇る事に気を取られ、本当に大切な一つ上のステージへ上る事を忘れないようにしてほしいものです。


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