会費についての考え方

高い?  安い?

チケット制を取らない理由
 鳳雛会では会費は月会費制にしています。いわゆる「月謝」という形です。
 空手を習うということは、あくまでも空手道という武道を修行しているのであって、単なるカルチャーセンターでの教室とは違うのです。
 会に所属して収める会費というものは、場所代や使用する道具類の費用など、稽古をするに当たっての必要となる費用を含め、自分が習う先生への謝礼であるということです。
 もちろん稽古する回数が増えればそれにつれて必要とされる経費も増えるのですから、会費の額が変わってくるのもある程度合理性はあると思います。しかし、それが度を越してしまうとやった分だけ払えばいい、というような考え方に陥ってしまうのではないでしょうか。
 他の空手道場でも、週に何度稽古に参加できるかで会費を変えているところが多いようです。けれど稽古に参加する回数によって費用が変わるというのは一見合理的かもしれませんが、それが行き過ぎてチケット制にまでなってしまうと、空手の精神までもがお金で切り売りしているような感じになってしまいます。
 苟しくも「武道」を名乗るのであれば、「一回稽古していくら」などという形は取らない方がいいのではないかと思います。

 習う側からすると稽古した分だけ費用を払うという方がわかりやすくてありがたいかもしれません。しかし、それだと稽古に行かなければその分お金もいらなくなるので、一度稽古に間が空いてしまうと次第に道場から足が遠のく原因ともなりますし、そのように稽古とお金を比較して考えるようになると「武道」という道の上を歩くことから逸れていっているように思います。

 フランスには「ノーブレスオブリージュ(noblesse oblige)」という考え方があるそうです。それはどういう意味かというと、「高い身分に伴う義務とその責任についての自覚を持つ」ということだそうです。
 つまり武道のように、単なるテクニックだけでなく精神的にも向上を目指すような団体に所属しているのであれば、その会の運営に必要な部分を負担するのは当然であるということで、これは費用だけに限った話ではなく、行事等の協力についても含まれます。

 普通の人は習い事の一つとして空手をやっている人がほとんどですし、そのための費用として会費を納めているわけですが、そこには武道を学ぶ感覚がなくなってしまってはいけません。ですからあくまでも鳳雛会で収める会費は「謝礼」として扱っているわけです。

 鳳雛会での会費は現在一ヶ月3000円です。他の道場ではもっと安いところや高いところもありますが、他のフルコンタクトの道場と比較するとかなり安い設定だと思います。
 私が道場での指導を始めて以来、ずっとこの値段で変えていません。なぜ安い会費で運営できているのかというと、これは稽古で使う体育館などを使用するのに安い費用のところを借りることができているからです。将来的に、必要経費が上がっていけばやむを得ず値上げすることもあるかもしれませんが、今のところはこれでやっていけてます。
 それと一番の大きい理由は、私が空手の指導で生活費を得ていないということかもしれません。空手の指導を本業としている場合は、それで食べていかなければならないので会費の額がもっと高くなるのは仕方のないことだと思います。
 しかし、それを仕事としてしまうと自分の生活が掛かってくるので、自分の目指す方向と多少違っていても妥協しなければならないことがたくさん出てきます。その矛盾に精神的に悩むのがイヤなのです。

 また、ある他流の先生が次のように言っていました。
「安い会費で教えて、安い審査費で帯を出す。そんな風に空手を安売りするから『空手』の値打ちが下がってしまうんだ。やっている事柄に対して自信を持っていればもっと高い値段を付けてもおかしくないはずだ。」と。
 私はこの話を聞いて、この先生は自分の空手にものすごく誇りを持っているんだとある種尊敬の気持ちを持ちました。

 確かに世間では、払ったお金の多寡によってものごとの価値を判断してしまうところがあるように思います。例えばブランド物のバッグや時計。素人目にはニセモノも本物と見分けがつかないくらい精巧にできているそうです。
 だったらニセモノを使っていても不都合はないはずなのですが、高い値段を払うことで「ホンモノ」を買ったということに満足感を得ている人が多いのは事実です。 ニセモノの購入を勧めているわけではないのですが、高い値段を払う方が値打ちがあるのだといった感覚はおかしいと思うのです。
 しかし、世の中の仕組みがそうなってしまっているのです。
 ですから正しいと思う道を教えていこうとすることは大事なことではありますが、個人でそれを正そうというのには無理があります。

 空手を教えることでの金儲けなど考えていない先生が、ボランティアのような形で無料で空手を教えている場合があり、そういう先生も尊敬に値するとは思いますが、教わる側がその気持ちをきちんと汲み取っているとは限りません
 だとすれば、世の中における空手に対する価値を下げないようにするためにもある程度の対価を設定することは必要なことです。空手に携わる者の責任とも言えます。
 ただ、これが単に会費の便乗値上げの言い訳に使われてはなりません。本当に自分の教える空手がそれだけの価値があるものなのかどうかを常に自問し、自分の空手を高めていく努力を続けていくべきであると思います。

 そうであっても鳳雛会の会費は安いと思います。単純に稽古することだけを考えても、鳳雛会内の支部間での相互稽古はフリーですし、指導している内容から見ても、けっして他の大きな団体に劣っているとは思えません。

 だったらなぜ会費の値上げをしないんだと言われるのですが、鳳雛会としての活動全体でマイナスにならなければよいという形で運営しているからです。
 自分の時間を削って指導しているのに支出の方が大きくなると、自分にお金の余裕のある時はいいですが、ひとたびお金に困ると空手を教えていること自体がイヤになってきます。そうなると道場の運営を続けていけません。そのマイナスにならないギリギリのラインとして鳳雛会では一ヶ月3000円としているのです。
 鳳雛会では稽古を行なう場所を借りたりするのでもできるだけ費用の安いところを借りたりしています。ただ単に空手を教えているだけならば3000円でも黒字です。しかし、様々な用具の購入、審査や大会に必要な費用、交通費、他団体へのお祝いや試合後に選手に食事をおごったりする支出も含めて、指導に掛けている時間から考えてもそんなに儲かるものではないということはわかってもらえるのではないでしょうか。

 上に述べた「空手の価値」の点を考えるともっと値段を上げるべきなのかもしれないのですが、兄弟や親子で習いに来ていたりする家族もいることを考えると総額が高くなってしまうので、会費の値上げには踏み切れません。
 それなら他の道場でもよくやっている「親子割引」や「兄弟割引」を採用すればよいと思うかもしれません。そして、その方が会費収入の総額は多くなることでしょう。
 しかし、その方法を取らないのにも理由があります。上に述べたように、鳳雛会の会費は武道の伝授に対する「謝礼」であるという考え方からです。
 会員一人ひとりが「武道」を習っているわけですから、その事柄に対しての対価をキチンと示し、それだけのことをやっているという自覚を持ってもらいたいのです。それは習っているのが大人であれば当然本人が、子供を習わせているのならば親にその自覚を持ってもらうために。何人もの兄弟を通わせている親からすれば大変だとは思うのですが、一人ひとりにそれだけの価値のあることをさせているという自覚を持っていただきたいのです。
 鳳雛会では、人数が増えればその分安くなるなどという商売的な感覚ではなく、弟子に対して「武道」を教授している気持ちを忘れずに指導しています。つまり「武道」の安売りはしていないということです。
 そういった点も踏まえて考えると割り引き制度などは取り入れたくありませんし、そうなると一人当たりの会費をそう高くは設定できないのです。

 それに家族割引があるなどと聞くと一見安く思えても、元々の一人当たりの設定金額が高額な場合が多いので合計するとそんなに安くなっているようには思えないんですがね。
 携帯電話じゃあるまいし。


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