上下関係


傲岸不遜


他人への態度
 傲岸(ごうがん)とは「気位が高く人にへりくだらない様」、不遜(ふそん)は「思い上がって高ぶり従順でない事」をそれぞれ表す語句で、合わせて四字熟語としてもよく用いられる言葉です。簡単に一言で言えば「エラそう」という事です。

 何でもかんでもへりくだって、選挙中の政治家みたいにペコペコ頭を下げる必要はありませんが、本来謙虚にならなければいけない相手に対して、自分では気が付かないうちに失礼な態度を取っていることはありませんか。

 気が付かないうちに、と書きましたが、自分がどんな状態かということはわかっていて、その上で「まぁ、いいか」と判断してしまっているところに「傲岸不遜」な気持ちが表れているのです。

 それなのに本人は自分のそういった態度がそれほど悪いと思っていなかったりします。

 それはなぜか。

 それまで生きてきた中で、上下関係が必要だという事を学んでこなかったからです。
 最近は学校で先生に対してキチンと敬語を使って話ができる子供が減ってきました。もちろん、キチンと使える子もいるのですが、全体で見ると、先生に対して敬語を使わなくても別にかまわないと思っている子の方が多いようです。
 「もっとしっかりと言葉遣いを指導してください!」などと要求される親御さんもいるのですが、それはなかなか難しい面があります。

 なぜなら、最近の学校は、文科省 → 教育委員会 → 校長 といった流れで、指導するべき内容が上から細かく決められていて、そうやって指示されたことをこなす事が最優先とされています。更に上に出す報告書などの膨大な量の書類があり、そういった雑用に追われ、それが本務のようになっていて、子供に向き合って指導するという一番大事な仕事が後回しにされてしまうようになってます。

 そしていまだに、「生徒は学校の先生の言う事は聞くものだ」と思っている人も多いようですが、昔のように先生から言ってもらえれば素直に従う、なんてことはありません。

 それはなぜか。

 家庭で年上の人、目上の人の言う事は聞きなさいという躾け(家庭教育)がなされていないからです。
 最近は親に対してもタメ口で話し、親もそれを「私達親子は友達みたいに仲良しですから〜」なんて言ってたりします。兄弟の中でも兄や姉に対して名前で呼んで敬語を使わないのが当たり前になっている家庭も増えてきています。
 生まれてきた時からそんな家庭環境で育ってきたら、学校で「目上の人には敬語を使いましょう」なんて言っても、そう簡単に身に着くはずありません

 体育会系の運動部のように厳しいクラブでは先輩後輩の上下関係が厳しく言われたりしますが、練習の厳しさよりそんな上下関係を嫌って正規の部活動を辞めてしまう人も多く、そういったことをあまり厳しく言われない仲良しサークルに入る人の方が多いようです。

 上下なく同じレベルの仲間として楽しく活動するのも悪い事ではありませんが、そんな環境だけで生活していると、必要な時にも上下の区別がつけられなくなります。
 学生の間はまだしも、社会へ出れば必ず上下関係はついて回ります
 仕事においての先輩・後輩関係や年長者に対する態度など、それ無しで世の中が回っていくはずないのです。

 これは人としての存在に上下があるというのではなく、一つの社会の中では立場の違いによって自らの行動をわきまえなければならない場があるという事です。
 その区別をキチンと付けて行動する事ができない者は「常識知らず」として疎外されていくようになるのです。

 新しく出てきた若い芸能人なんかが誰に対してもタメ口でしゃべったりしていて、それが今の世の中では平等だからそれでいいんだ、みたいな論調をたまに見かけますが、人並み外れた才能を持つ芸術家や芸能人だからそれが許される(若しくは、そうやっても生きていける)のであって、そんな飛びぬけた才能を持たない普通の人がそんな態度を取っていたら、誰からも相手にされなくなってしまいます。

 その社会での自分の立場、立ち位置をきちんと把握して、それに基づいて自らの行動をコントロールできないと、その社会で生きていく事はできません。

 そして、それは上の者に対する無礼な行動だけでなく、下の者に対する態度にも表れます。むしろ、立場が下の者に対しての態度にその人の人間性が表れます

 自分より相手の方が立場が低いと思うと、とたんにエラそうに「傲岸不遜」な態度を取る人がいます。飲食店や販売店で店員に対してエラそうなモノの言い方をしている人を見かけたことはありませんか。

 あなたはそんな人を見て「強そう!カッコ良くて素敵!!」なんて思いますか?

 残念ながら私の回りにもそんな態度を取る人がいます。
 相手がハイハイと頭を下げるので自分がエラくなったような気になって気持ちいいんでしょう。

 普段は目に見えない部分なので中々気付きませんが、そんな人を見ると、「イヤな奴だ」と思うと同時に、「可哀相な人だな」と感じます。けれど、その人は自分が「イヤな奴」で、その上「哀れみの目で見られている」事に気付くことはできません

 もし店員が客に対して失礼な態度を取ったのならば、客としてそれを指摘するのは当然の事かもしれませんが、カサに掛かって必要以上にエラそうに言うことではありません

 店員がその場でペコペコ頭を下げているのは、相手が「客」の立場にいるからだけで、客の方が店員より人としてエライわけではありません
 店員はその客が帰った後に、言われた以上にボロクソにその客のことをけなしているのです。
 陰でボロカスに言われるような「嫌な奴」にならないで欲しいものです。

 空手を習うことで道場内での上下関係を学び、目上の者に対しては勿論、後輩や年下の者に対しての態度にも一貫して筋の通った態度、行動が取れるようになって欲しいと思います。


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