ルールとマナー
「効いている!」は
マナー違反の声援か?
最近は「大会規定」で観覧者の応援ルールを定めている大会が増えてきました。
以前は、試合コートのすぐ横で相手選手を愚弄するようなヤジを飛ばしたり、審判に食って掛かるような保護者がいたり、時には指導者までが同じように失礼な声を挙げていることがありました。
本来、声援はマナーに属するものですが、あまりにひどい応援態度の試合が多かったために大会ルールで縛るようになってきたのです。
以前の状態からすれば、それもやむを得ないものかもしれません。
ところが、一部の連盟や大会では自主規制を利かせ過ぎ、観覧者は声を出して選手を応援してはいけないなどという「ルール」を制定しているところまでありますが、さすがにそれは行き過ぎでしょう。
聞くに堪えないヤジや相手選手への罵倒があったりしたことから、武道としてふさわしくないということでこのような対策が採られたのでしょうが、自分が応援する選手に声も掛けられないというのはスポーツ競技として盛り上がりに欠けるものとなり、スポーツ本来の意味・目的からも懸け離れたものとなってしまいます。
(試合会場で選手に声援を送るのを禁止している種目なんてあるのでしょうか。私は寡聞にして知りません)
もちろん、ゴルフのパットや体操競技の演技など、極度の集中が必要とされる場面で声を出すのはいけませんが、対戦型のスポーツで観客が声援してはいけないなどというのはまったくナンセンスでバカげていると言ってもいいでしょう。更に言えば、それを徹底するならば、そのスポーツ種目が発展していくことは絶対にないと思います。
それでは、どこまでが許される範囲なのでしょうか。
大会の規模や格(全日本大会と道場内大会では当然「格」が違います)によって規制のラインは変わってくると思いますが、基本的に自分が応援する選手への指示やアドバイスについては許される範囲だと思います。
そうすると、表題に挙げた「効いている!」はどうでしょうか。
私は、問題ない と考えます。
知り合いの先生が、ある大会で選手のセコンドに付いている時に、「今のパンチが効いているぞ!」とアドバイスしたら、審判から「『効いている』という声援はしてはいけない」と注意されたそうです。
上段回し蹴りが顔をカスったくらいで「入っている!」と叫ぶのは、審判の判断に対して失礼な発言かもしれませんが、ボディにもらったパンチのダメージに耐えている者へ「効いている」と言うのは、言い過ぎなのでしょうか?
これを相手選手への非難と受け取るから「相手に失礼」などと過剰に反応するのです。
戦っている選手自身は、実は試合内容を冷静に見れていないものです。自分の出した攻撃が相手に効いているかどうかに自信が持てず、せっかく効いているのに効果が無いように思えて攻撃の対象を分散させてしまう場合が多くあります。
そんな時にセコンドが的確に指示を出し、「効いている」ところへ攻撃を集中させるのです。「効いている」は、「だから、そこを集中して攻めろ」という指示です。
そういった選手への指示までもが一律に禁止されるのには違和感を覚えます。
セコンドからの指示とマナー違反の応援を十把一絡げにして、すべてを禁止にする事で大会の品位を上げようなどというような安易な規制をしていくのは、空手そのものに対しての敬意が足りないのではないでしょうか。
粗暴な言動が非難されるのは、空手に限らずスポーツ全般に言えることですし、マナーの面から考えなければならない事ではあります。
しかし、武道としての在り方と、スポーツでのマナー向上は別の問題であり、一緒くたにして考えるべきものではありません。
それに武道的な観点だけで空手を捉えるならば、厳しく規定されるのも仕方ないのかもしれませんが、試合という競技の部分を取り入れている時点でそれは「スポーツ」であり、万人に開かれたものでなくてはなりません。
「効いている」と指摘するのは、武道的には相手に「失礼」なのかもしれませんが、「スポーツ」としての試合の中で、声援、アドバイスとして出される声についてはまったく問題ないと私は思います。