ツイスト打法


トップレベルでの野球技術との類似点
ツイスト打法というのをご存じでしょうか。

野球でボールを打つ時に、タイミングを外されて体が泳がされるのを防いで、ボールをミートする特殊な打ち方です。

h22.03.25の報道ステーションで巨人軍の阿部慎之助選手がゲストに迎えられ、ツイスト打法という名称で紹介していました。
長嶋監督などは二枚腰という表現を使ったり、腰の回転が逆運動と言い方もしていたようです。メジャーリーグで活躍を続けるイチロー選手もやっているとのことでビデオの映像を使っての説明もありました。

タイミングを外された時に身体が流れないように腰を逆に捻る。

この打ち方がプロ野球の一部で流行っているというのです。

しかし、あくまでもこれはタイミングを外されたボールに対する対処法であって、練習法の一つに過ぎないという事は阿部選手自身も述べていたことです。

プロがやっていることなんだからいいに決まっている、と思う人もいるでしょうが、プロ野球で活躍しているのは、アマチュア時代はエースで4番だったような人ばかりで、そんな人たちが全国から集まってきている世界がプロ野球です。
その中の更にトップを目指す一部の選手が取り組んでいることを、一般の人が真似てもそう簡単にうまくいくわけがありません
土台ができていないんですから。

本来のスイングなら下半身から力を伝えていった方が当然パワーはあります。
途中で腰を逆に回転させるスイングでは、フルスイングした時よりパワーが下がるのは当たり前のこととして理解してもらえると思います。

いくらいい打法だからといっても特殊なバッティング方法ですから、何でもかんでもそのスイングで振っていては上達するわけありません。

練習法の一つとしてそういうスイングを練習することがあったとしても、全体の中で見れば、それはほんの僅かなものに過ぎず、練習のメインとして時間を割いて行うものではありえません

まずはきちんと腰を回転させ、全身のパワーが回転の最後のバットに乗っていくようにすることが一番重要で基礎になるものです。

つまり、ツイスト打法というものは初心者が行うべきものではないし、その練習に時間を掛けてよいものでもありません
その打ち方ができるのは「達人」と言ってよい人です。


どうして野球のスイングについてこんな話をしているのかですが、実はこのツイスト打法と同じ腰の使い方空手の突きにあるのです。

剛柔流の中では割とポピュラーな技術のようですが、言葉では伝わりにくく、わかりにくいためか、書籍などでこの突き方を説明しているものはほとんど見掛けません。

私がこの突き方に注目したのは、剛柔流で稽古している高校生が基本の突きをしている時でした。それまでにもそういった動きを見たことはあったのかもしれませんが、熟練した上級者の場合は自然な動きなので、注意して見なければ単になる癖程度にしか感じなかったのかもしれません。
初めてこの突き方を見た時、私の目には非常に奇異なものに映りました。
だって右の突きを突いた時に腰を右へ回すんですよ。
回すというより、ケツを振っていると言った方が適切かもしれません。

基本の号令に合わせて、一本いっぽんケツをプリンプリン振って突いている光景は非常に不思議で、一言で言えば「カッコ悪い」ものでした。
なぜそんな突き方をしているのか尋ねると、その高校生は、
こういうふうに突けって教えられました
としか言えないんですよね。まぁ当然といえば当然です。

初心者の間はとにかく言われた通りに稽古して、理屈ではなく体で動きを覚えなければならないのですから、まだ高校生ではなぜそういう動きをしなければならないのかというところまで考えたこともなかったんでしょう。(一応、そいつは黒帯は締めてたんですけどね。)

それにその奇妙な突き方を教えた人がわかって教えていたとも思えません。実際、その高校生は意味も分からず同じ突き方を下級生に指導してましたから。

意味も分からず形だけ踏襲していくのですから、その過程で動きがだんだんデフォルメされていっても、それに気付いて修正することは難しいでしょう。

この技法の正しい形を知ることができたのは、ある有名な先生の講習を受ける機会があって、この技の説明を聞くことができたからです。

その先生はその腰の使い方を「ダブルツイスト」と表現していました。 空手の技なのに英語で言うなんて何か奇妙な感じがしたので、日本語ではなんと言うんですかと聞いたんですが、
「いやぁ、私も知らないんですよ。師匠から『こういうふうにやれ』って言われたのを人に説明するのに『ダブルツイスト』って言った方がわかりやすいからそう言ってるだけなんです。」
と言われてました。

いわゆる「動き」自体のことなので、きちんとした「技の名称」が付いていなかったのか、言葉で説明しにくいものだからか、一般にはあまり言われてこなかったもののようです。

最近になって、沖縄空手の動きの説明として「ムチミ」や「ガマク」などが、やっと書物でも見掛けるようになってきましたが、そういった言葉と同じようなものだと思います。

で、この「ダブルツイスト」ですが、どのような技法かというと、
(以下、すべて私の理解です。間違って解釈しているかもしれません。)
ムチの使い方みたいなものです。当たる瞬間にちょっと引く、みたいな。

まぁ、ムチなんて一般の人はあまり使う機会もないでしょうから、タオルで説明してみます。タオルの端を持って反対の端を振って目標にぶつけるとしたら、思い切り振り回して当ててもたいして威力はありません。しかし、当たる瞬間にスナップを聞かせて少し振り戻すようにすれば、タオルの端が目標に「バシッ」と当たるというのは想像してもらえるでしょうか。

それを突きでやるんです。

右の突きを出す時は当然腰が右から左に回転し始め、それに引っ張られて右の腕が出てきます。そして目標を打ち抜くのではなく、拳が当たる瞬間に腰を逆に捻って体の流れるのを防ぎ、目標点の上で拳が鋭くピタッと決まるのです。

思うに昔の空手では、「極め」が重要視されていたため、技が流れるということを極端に嫌っていたところがあります。突きの後の「引手」や、蹴りを「引いて」戻すなどにそれが表れています。

蹴りについて私の師範は、「元々、空手にも『蹴込み』といってフォロースルーを取るような蹴り方もあるが、現在の蹴り方はムエタイの影響だ」と仰ってました。

空手の技としては「極め」、「残心」などの言葉に表わされるように、目標を正確に捉えた後は引きを取って、再度同じ攻撃を仕掛けることができる体勢を取っておくことが重要視されていました。

突きにしてもヒットポイントから技がブレず、更にその瞬間に最大の破壊力を持たせるために、腰の「ダブルツイスト」、つまり振り戻しが行われていたのです。

打ち抜く」、ではなく「極める」。そのための技法が「ダブルツイスト」なのです。
空手の基本稽古の場合、裏拳などはスナップを使いますし、蹴りにしても蹴った後、ダラリと下に降ろさず、蹴り出しと同じラインで引くように言われることが多いと思います。
少林寺拳法の場合は突きもスナップを使って引くのを基本としているようですが、空手の基本では突いた位置で止めるように教わります。その時に身体が流れるのを防ぎ、さらに威力を持たせるために腰のダブルツイストを使うわけです。

ここで問題提起したいのは、
「基本」で「ダブルツイスト」が必要なのか?

という事です。

確かにダブルツイストには利点もたくさんあり、身に付ければ有用な技術ではあります。しかし、それはある程度の技術レベルになってから覚えるべき技ではないでしょうか。

上の野球の例で言えば、フルスイングの練習はせずに、ツイスト打法のフォームで延々素振りしているようなもんです。

まず第一に必要なのは、思い切りボールを叩くスイングを身に付けることで、変化したボールに合わせる練習は二の次だという事です。

空手の場合も突きの稽古は、まず拳をしっかり握って目標をガツンと叩ける突きを覚えるべきで、拳に全身を乗せて突けるようになるのが第一です。
「ダブルツイスト」による突き方はもっと上級者になってからでいいと思います。

空手が普及していく過程に合わせて、個人指導の稽古から、号令で一斉に集団稽古ができる形へと基本稽古のスタイルが形作られていった中で、その基本を作っていったのは当然上級者ですから、「ダブルツイスト」の突きも覚えた方がよい、だから基本もこのように指導しようという上級者の視点で指導してしまったのではないでしょうか。

まず基本を身に付けて、更に上級者を目指すという段階を踏んだ体系で上達しようとするのなら、わかりにくい「ダブルツイスト」のような突き方は、初心者には教えるべきではないと思います。つまり、「基本」の中に取り入れるのは間違っているのではないでしょうか。


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