なぜ、うまくならない


上達しない理由


「言えばわかる」は幻想
 稽古を続けているのに中々上達しないのには、大きく分けて2つのパターンがあります。
 一つはできないことを自覚しているのに修正できない場合
 できない事を自覚していても、それをうまく修正できないのは稽古している人達の多くが持つ悩みです。「あのように後ろ回し蹴りがしたい」と頭の中にイメージはあるのに、イザ自分がやると全く華麗な蹴りにならないというヤツです。
 これは一言で言えば稽古不足であり、繰り返しやってできるようになるしかありません。勿論、柔軟性など元々持っている身体能力とも関連していますから限界はあります。
 それに人と同じ時間稽古してもその人と同じだけ上達するわけではありません。個人によって上達のスピードには差があるからです。
 この場合には、本人は自らができていないことを理解しているだけに、上達が遅い事にイラだち、「自分は所詮こんなレベルだ」などと諦めてしまう人も多いのですが、こういう人もコツコツ続けていれば必ず上達します。
 それなのに、自分は素質がないからできないのだと勝手に思い込み、自分で限界を決めて、もうこれ以上はうまくならないだろうと諦めてしまうことが多いのですが、天性に恵まれた人のように簡単に技を修得できなくても、一つの技を繰り返し行なう事で自分の技にしていく人も多いのです。

 もう一つは、自分ができているかどうかさえも自覚できないというケースです。
 「できない」事は全体としてわかっていても、どこがどうダメなのか理解できないのです。
 この場合は、自分からうまくなろうと努力する事が中々できないので、上達するのが難しくなります。

 こういう人は自分のやり方に頑固にこだわる人が多いようです。
 「できていない」にも拘らず、アドバイスされた事に素直に従わず「自分のやり方」を通そうとします。
 それは基本から始まり、型も組手も同様で、キックミットの蹴り方一つから柔軟体操に到るまですべてに及びます。
 勿論、個々人によって体格や柔軟性に違いがあるので、それぞれのフォームやタイミングに違いはあってもいいのですが、我流になってはいけません

 自分がどのような形になっているのか、示された手本の動きと同じようにできているのかを意識しようとしないから上達できないのです。

 自分の動きを客観的に見ることができず、自分のやりやすい動き自分の中で「正しい」と思ってしまうのです。

 自分を客観視できないと、できていない事を自覚できず、うまい人の動きを真似する事がうまくできません。
 「模倣する能力」については又、別で詳しく述べたいと思いますが、うまくなれない理由の大きな原因の一つがここにあります。

 大人も同様なのですが、特に子供の場合、運動神経のいい子はうまい人の動きを見てすぐに真似ることができます。それに対して、鈍い子は見てそれを同じようにやるのが苦手です。
 見た事と自分のやっている事が同じ動作になっているのかを正しく認識できないからです。意識するポイントがズレていると言っていいかもしれません。
 そのポイントを指摘してやればいいのかというと、そう簡単な話ではなく、指摘されているのが自分の「この部分」だという事が理解できません。
 更に言えば、自分が注意されているという事さえ理解していなかったりします。

 丁寧に「言えばわかる」というのは、実は幻想で、言ったことを認識できるかどうかは聞く側の理解力に左右されます。

 こうは言っても、普通に会話ができているならゆっくり時間を掛けて話をすればわかってもらえるはずだと思っている人も多いのですが、これ以上ないくらい丁寧に、詳しく、細かく説明しても、頭で理解できない人はいるのです。

 この事に同意できない人は、ある意味、傲慢であると言ってもいいでしょう。自分が理解できる世界しかこの世に存在しないと思っているのです。
 自分の状態がわからない子は、自分のことなのに本当に理解できないのです。

 そんな子は全体稽古の中で大勢と一緒に注意されても、自分の事だと思って聞いていません。言われている事ができているかどうかを自分で確認できない(= 客観視できない)からです。
 当然、注意された所を直そうとしません。自分では「できている」(若しくは、できてない事はない)と思っているから、自分が注意されていると思っていない(気付かない)のです。

 自分の動きを意識できない子にはどう指導したらよいのでしょうか。
 大人の場合は自らの意志で空手を習いに来ているので、うまくなろうと自分から努力しますから、注意されていくうちに気が付き、直していきます。(それでもガンコな人はいますが・・・)

 だいたい子供の場合はヤル気に波のある場合が多く、始めは頑張っていてもしばらくすると別にそれほどやりたいと思っていない事も多くて、そこまで真剣に取り組まずにとりあえずは続けてはいるという子もけっこういるものです。けれど、そんな子には厳しく指導しなければ、いつまでたっても上達しません。
 長い目で見て本人がその気になるのを待って、という指導方法もあるのでしょうが、せっかく稽古に来ているのに時間がもったいないだけでなく、武道を教える上で、そんな状態のまま見過ごす事はできません。
 その子の性格などにもよりますが、できていない場合はある程度厳しく指導するべきであると私は思っています。

 そういった指導を受けていく上で何より必要な事は、親のフォローでしょう。
 子供のヤル気に波があるのは当然で、次々に新しいものへ興味が移っていくのは、ある意味、普通の事です。
 けれど、ある程度以上は続けなければ、成果が出ないのも当たり前の話です。飽きて辞めてしまいそうになった時に、励まして続けさせるのは親の役目です。子供にとって続けることの重要性を知る事は、将来に渡って役に立つ大切な事であり、それを学ばせる役割は、道場の師範よりも親の教育に掛かっていると思います。
 空手をするのがどうしてもイヤだという子供に無理やりやらせる必要はないと思いますが、続けていけば必ず上達していくという事を、子供よりも親の方が強く信じてやるべきでしょう。

 そして、それは空手の指導者からすれば、本当に間違いないことなのです。

 けれど、何よりも大事なのは、やっている本人が「うまくなりたい」と心から思う事であり、自分が強くない(うまくない)のは、自分ができていないのだから、注意されている事はすべて自分に言われているのだと思うくらい謙虚(素直)になり、アドバイスに耳を傾ける事が必要です。
 自分の今の状態をキチンと見つめ、うまくなるために必要な「注意された事を素直に聞くこと」ができるようにならなければいけません。

 自分の状態を常に意識し、見つめる事によって、良い動きと悪い動きの違いを認識できるようになれば、自然と上達していく事ができるようになります。


inserted by FC2 system