最近はインターネットが発展したせいで情報の流通がとても速くなっています。
稽古方法もその例に漏れず、
「早く強くなる」練習方法やトレーニングがすぐに手に入るようになりました。
確かに自己流だけでやるよりもいろんなレパートリーのあった方が自分に合うやり方を見つけやすいですし、多くの人に試されていて実績のあるやり方が簡単に手に入る便利さはあります。
けれど、どんな素晴らしいトレーニング方法でもそれを
やりこんで身に着けなければ、頭の中の知識だけでうまくなれるはずありません。
それを忘れてすぐにうまくなれる(
気がする)トレーニング方法をいろいろ試して、
「あのやり方は俺には合わない」などと言うのです。
変わったやり方、目新しい方法に気が引かれるのもわかりますが、空手で言えば、まずは
基本稽古を繰り返しやることで正しいフォームを身に着けるのが大切で、そこから組手の中で対人相手に
応用的に技が出せるようになるのです。
その最初の部分である、自分の動きの中に技を取り入れるための
量の稽古を充分に行わず、
即席で早くうまくなれる方法があるなんて
考えるのが間違っています。
最近はスマートフォンが普及したことで
漢字を覚えられなくなったと嘆く人が増えています。スマホやPCを使えば素早く漢字に変換してくれるものですから、自分で
書いて覚えるという作業をしなくなりました。ですから、いざ自分で文章を書こうとした時に漢字が出てこなくなるのです。
繰り返し書いて覚えた字は頭の中に出てこなくても、手を動かして書いてみれば自然と書けることが多いものです。
身体が覚えていると言っても良いでしょう。手を動かすことと、頭の中の漢字が
無意識の領域で結びついているのです。
同様に、どんなに素晴らしい理論を知ったところで、
体が覚えるまで繰り返して稽古しないと
技は身に着きません。
プロ野球でも一流のバッターほど素振りをたくさんやっています。そして、それは
基本通りの正確なフォームで振っています。動画で見てもらうとわかりやすいのですが、実際にホームランを打った場面では来た球の変化に対応して
踏み出した足がズレたり、打った後に
態勢を崩したりしている場面がほとんどです。だからといって打った後に
崩れるフォームで素振りしている人など
いません。基本的な動きを数多く繰り返し、正しい動きを身に着けた後だからこそ、実践でフォームが多少崩れても正確にボールを捉えることができるようになるのです。
空手においても
基本は正しいフォームで正確に、が原則です。ところが、基本の時と組手の時では引き手の位置や立ち方が違ったりします。それに実際に相手と対峙した場合には、
間合いやタイミングによって体勢が変わるのだから、基本で固定した動きを繰り返すより、
組手をやっていた方がいいんだという意見を持つ方もいます。
ある面では真理を突いている部分もあり、
間違った理屈ではないのですが、組手だけやって上達できるのは
素質に恵まれた才能のある奴だけです。
もちろん組手なしで
基本だけやっていればいいものではありませんが、プロ野球で素振りをせずにフリーバッティングだけしかしない一流選手なんていません。
基本の動きを繰り返し行ない、その動きのエッセンスを身体に染み込ませることができているから、その上で
相手に合わせて威力のある突き蹴りを出せるようになるのです。
少し器用な人はちょっとその技を練習すると動きの
ポイントがつかめてしまうので、
「こんなカンジか」と思ってそれ以上やらなくても大丈夫だと考えてしまうようです。
また、センスのある者は同じ技を何回もやっていると
飽きてきて、ちょっと変化を加えたり、技を替えたりしていく人が多いようです。これはこれで自ら向上を意識して技の範囲を広げたりする意味においては重要な事なのですが、
無意識にその技が出るまで体に技がしみ込んでいるのかと言えば、そうではないことが多いようです。
稽古とは
「古(いにしえ)を稽(かんが)ふ」と読みます。先人の残した空手の技術を
「知った」だけで充分わかったと満足するのではなく、どのように使うのかを
「考え」、
使えるようになるまで繰り返し鍛錬し、
身に着けることが必要になるのです。
忘れた漢字も手を動かすと勝手に書けたというのと同じくらい、空手でも
自然に受けて無意識に技を返したというレベルにまで
数の稽古をこなしてほしいと思います。