マナーとかたち


武道とスポーツ


試合に見える取り組む意識
 空手は「武道」となのだから試合においても小細工せずに正々堂々と戦うべきだと言う方がおられます。試合で勝利を印象付けるアピールなどのテクニックは「武道」として許せない。試合のラスト30だけ見せかけのラッシュをしたり、ほんのちょっと顔をかすっただけのパンチで大げさに反則アピールするなどは「武道」として醜いと言うのです。

 当然、正しい意見です。

 しかし、空手を武道として取り組めるかどうかは、結局「個人の資質」にあると思います。
 空手が前提として格闘技であるのは間違いないことですが、それを武道として稽古するのか、スポーツとして楽しむのかは取り組む人の意識次第です。
 武道修練の一環として試合に出ているのであれば勝ち負けは二の次で、そこに至るまでの稽古の内容や、試合に臨む意識、試合中の態度、試合後の反省などが大切になってくるわけです。

 けれど、武道として取り組んでいる人でも試合に出る時にはルールに則った「スポーツ」として出るわけですから勝ち負けで評価されるのも当然で、「正義は力の中にあり」というのも間違った認識ではないでしょう。勝った奴が正しいと言えなくもないのです。
 試合ルールは自分にだけ課されているのではなく、相手も同じ条件で戦っているのですから、そのルールで「勝てない」のはその種目では「弱い」ということになります。
 ですからスポーツの大会においては「強い者が正義」なのは否定しようがない事実です。勝たなければどんな正論を吐いたところで所詮負け犬の遠吠えです。

 けれど、勝っても負けても試合後の態度にはその人の空手に取り組む姿勢が表れてきます。勝ったことで大喜びして負けた相手の目の前で大騒ぎしている人を見てどう思いますか。互いに全力を出して僅かに及ばず負けた相手に対して配慮もなく拳を突き上げて叫んでいる姿、「武道的」ではないですよね。

 剣道なんかはガッツポーズをしただけで「ルール」で反則となることになっています。そこまで厳しく縛るのもどうかとは思いますが、そうまでしないと「武道」として下品な行動を取る者が多いということでしょう。

 空手の試合ではそこまで厳しく言われませんが、やはり「武道的でない」行動を取る選手はいます。
 けれど、相手が武道として許されないと思える行動を取ったとしても気にする必要はありません。自分が「武道的」に対応すればよいだけの事です。
 本当はスポーツのルールに則ったうえで相手を叩きのめして、その後で平然と握手できれば最高なんですけどね。

 また、試合後に相手のところに行って挨拶するというのをほぼ強制的にさせているところもあるようですが、試合場の上で最後に「互いに礼」を交わしているのですから、その後までわざわざ相手のところに行く必要はないんじゃないでしょうか。
 本当に相手の健闘を称え、話を交わすために相手の所へ行くのならわかりますが、形だけの握手をするためならそんなものはしないほうがスッキリします。
 表面上だけ謙虚な形を取ったって心が入っていなければ意味がないのは当然ですが、その形すら取れない者もいるので強制的にやらせてるのかもしれません。
 けれど、「慇懃無礼」という言葉があるように、相手に対しては逆に失礼なことを強制してやらせているように思います。

 私の経験上、本当に強い人は試合場を降りた後はとっても謙虚です。 自分より強い人なんて世の中にはいくらでもいるということを知っています。
 ですが、狭い世界のお山の大将ほど、自分がヤマのてっぺんにいることを自慢したがりますね。

 試合後に話をしにいくと、強かった人ほど「あのパンチは効きましたよ。」とか、「私の蹴りが入ったのはたまたまです。」なんて言ってます。(本当はちゃんと狙って攻めてるんですけどね) 更にその上で「こういうところを稽古したらもっと強くなりますよ。」といったアドバイスをくれたりします。
 そういう会話や交流を求めて試合後に挨拶しにいくのは貴重な経験となるものですが、「とりあえず試合後は相手のところに行って握手しといたらいいんだろう」みたいな態度を取る選手がけっこういます。(特に少年部には多いですね)
 そんな選手に「武道」としてなっていない、なんて怒っても仕方ないです。

 たとえスポーツとしての試合であっても自分が武道的に取り組んでいけばよいのではないでしょうか。
 相手にまで「武道的に」などと求めるのは、逆に尊大なのかもしれません。

 空手はもちろん「武道」ですが、空手をしている人全員が「武道」としてやっているわけではありません。単なる「スポーツ」の一種目としてやっている人の方が多いくらいでしょう。

 親御さんが子供に空手を習わせる動機の一つに、武道を学んで礼儀作法なども身に着けて欲しいという希望が多いようですが、実際に習わせて上達しだすと、大会などの結果にこだわり、試合の勝ち負けに一喜一憂してしまうことが多いものです。

 試合の結果にこだわるというのは「スポーツ」として部分に意識を取られてしまっていることになります。
 もちろん、武道としても勝つ方が良いに決まってますが、単に勝つことだけを目指すのでは「武道」としての価値はありません。
 武を以て人としての道を歩むから「武道」なのです。たとえ試合に負けることがあったとしても、その試合までに尽くした努力と稽古を続ける精神力、そして試合中の諦めない気持ちなどを持つことが出来たら、試合の結果は二の次でよいのです。

 相手が勝つことだけにこだわって卑怯な戦法を取ってきたり、試合後に浮かれた態度を取ったりしていても、それをあげつらって「武道的じゃない!」などと責める必要はありません。武道は自らの修練なのですから。

 武道的でない相手に対しても武道的に立ち向かう。
 それこそが「武道」なんだと思います。

 と言っても小学生にそこまで求めるのはちょっと難しいですけどね。コツコツと自分の目指す空手をするだけでいいと思います。

 真っすぐに努力することができる子には最後には必ず素晴らしい品性が備わってきます。


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