追悼


お辞儀まで美しく


総主 大山茂
 2016年2月15日午前3時頃(現地時間14日)、私の師範である大山 茂 総主が御逝去されました。  インターネットを通じて世界中にそのニュースが流れ、多くの人がその死を悼む声をブログやSNSで発信していました。

 私もその報を受け、大きな喪失感に包まれました。日本での合宿でご指導頂いた事や、N.Yの本部道場に寝泊りして稽古させて頂いた時に内弟子と共に道場でテーブルを広げて一緒に食事を摂ったことなど、お世話になった思い出が次々と脳裏に浮かんでは消え、もう一度直接お会いしてお話を伺いたかったという思いが頭をよぎるのでした。

 いろいろな思い出の中でも、ここでは大山 茂 総主の人間性を示すエピソードをご紹介したいと思います。

 つい先日、演出家の木ノ下裕一氏が、桂春団治さんが亡くなられた事からその思い出話を新聞に掲載されていて、その美しいお辞儀姿に感動したという話に、私も20年近く昔の経験を思い出していました。

 当時、大阪支部長をしていた私は、西日本では初めての講習会を企画し、参加者の募集、連絡、会場の確保、ホテルの手配、師範の出迎えから講習会場への送迎、夜の食事会の予約など、今思い出しても目の回るような忙しさでした。当日の会計処理はその方面を専門にしている後輩が手伝ってくれたおかげでかなり助けられましたが、みんなが師範を囲んで焼肉を頬張っている間も2人で別テーブルに座りずっと計算していたのを覚えています。

 大阪へは大山茂総主と三浦美幸師範の2人が来られて、参加者を二組に分けられるほどの盛況で開催する事ができました。

 メインの講習が無事終了し、控え室への移動に道場から廊下に出た時のことです。廊下には裏方として動いてくれた私の道場生の保護者の方々がいました。私も案内の為に一緒に廊下へ出てその前を横切って師範を先導し始めたときの事です。

 突然、総主がくるりと振り返り直立不動の姿勢を取ったかと思うと、深々と腰を折って
「お手伝いありがとうございました。」
と、保護者の方たちに頭を下げてくれたのです。

 私は正直ビックリしてしまいました。門下生である私たちが走り回るのは当然で、指導場所をお膳立てするのは普通の事です。更にその下の弟子の保護者が手伝っているなどは、師範からすれば当たり前過ぎる事なのではないでしょうか。
 けれど、総主は保護者の方々が講習会に協力してくれた事に対して、直接キチンと感謝の意を表わしてくれたのです。

 フルコンタクト空手界の最高峰にいると言える方が、地方の講習会孫弟子の保護者頭を下げるなんて誰が想像できるでしょうか。私はその横にいて感動に震えました。なんて素晴らしい師に出会うことができたのかと胸がいっぱいになったものです。
 保護者の方々には本当にいろいろとお世話を掛けたのですが、総主が頭を下げてその労をねぎらってくれたことで、どれほど私の顔を立ててもらうことになったか。今でもあの時の光景が目に浮かびます。

威儀を正した姿勢でお辞儀をされた総主の姿は、それは美しく清々しいものでした。

 本当に偉い人はエラそうな態度を取らない。それを間近で見せてもらった気がしました。自らも振り返って行動を省みなければならないと本当に感じたものです。

 ですから、逆にたいしたこともない奴がエラそうにしているのを見ると、
「お前は『大山 茂』よりもエラいのか?」
と言いたくなるのです。
 こんな事を書いている時点で
「そんな小さな事でゴタゴタ言わなくていいよ!」と、
あの世から怒られてしまうかもしれないですね。

 本当に素晴らしい師に指導を受ける事ができました。どうか安らかにお眠り下さい。

押忍



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