基本練習の大切さ


レベルの高い人ほどやっている
基本練習は繰り返し行い、身体で覚えさせなければいけないということは、理屈では分かっていても、実践できる人は中々少ないようです。

基本練習は単調ですぐに飽きてくるし、ついカッコ付けた練習方法をやってしまいがちです。ちょっと変わった稽古方法などを知ると、それをやりさえすれば魔法のようにうまくなれるような気がして、ついそれを試してみたくなるものです。
いろんな稽古方法を試してみて、自分に合うものを探すことも大切ですが、これをやれば簡単に強くなれるとか、あっという間にうまくなれる方法なんてものはありません。スランプを抜け出すためのちょっとしたキッカケとして、普段とは違う方法を試すというのも良いかもしれませんが、そんなことばかりやっていても本質的な実力が身に付くはずがないのです。
本当の実力を身に付けるには地味なコツコツとした稽古の繰り返しが必要なのです。

これは元プロ野球選手の江藤氏が、監督として東京六大学リーグで優勝したという記事です。
元プロ野球の選手がどうやって大学生を強くしたのか、というのが気になるところですが、普通の人からしたらアマチュアである大学生にプロの技術を教え込んで優勝したのだろう、と思うかもしれません。
しかし、記事の中で述べられている事実はそんなことではありませんでした。

素振りの数を増やした

そんな単純なことで・・と思われる人も多いでしょう。
「いや、もっと他に何かやっているはずだ」と考えるのも当然です。 もちろん、他にもいろいろな練習方法を取り入れてはいるでしょう。

しかし、これが一番重要なポイントとして挙げられているのです。しかもこれがアマとプロの違いだ、とまで言い切っています。

最近はサッカー人気も高まり、Jリーグやワールドカップも大変な人気ですが、日本全体でみた競技人口の多さと、アマからプロまでのピラミッド構造の大きさは野球に及ぶものではありません。国民的人気を誇るスポーツと言えるのが野球であり、甲子園で活躍したエースで4番みたいなヤツばかりが集まっているのがプロ野球です。

そのプロの世界で、アマとの大きな違いは「素振りの量」だと言うのです。

さらに天才と呼ばれるようなスーパースターたちが一番時間を掛けるのが、地味な「素振り」だと言っています。

バッティング練習で、素振りと言えば基礎の基礎ですが、プロはそれを繰り返しているのです。

空手の世界に目を戻すと、大会に出る選手はウォーミングアップした後、組手ばかりやってる人の方が多いでしょう。初心者よりも基本稽古に汗を流している上級者なんてほとんど目にしません。
実際、基本稽古だけしていて大会で勝てるほど甘いものでないというのも事実です。

これは一つには、初めて基本を教えてもらった時にきちんと理解して指導されていないため、試合では役に立たないと考えて、必要ないと短絡的に考える人が多いこと。
もう一つには、空手の基本は非常に単純化されて作られているため、実際そのままの形では組手に使えないものが多いということにあります。

ところが、トップクラスで活躍した期間が長い選手になってくるほど、基本が大事だと言い出してきます。
レベルが上がるに従って、やっと基本と組手の関係が見えてくるようになり、基本の重要性がわかってくるからでしょう。

しかし、試合で使う技術と基本練習の形が違うというのは、野球の素振りにも同じことが言えるはずです。

一般に素振りをする時は、真ん中高めとか自分で決めたコースにボールをイメージしてそれを打つつもりでスイングします。
その時の体勢はバランスの取れた一番きれいな姿勢で振っているものです。
ところが実際にピッチャーのボールを打つ時には、変化球などでタイミングを外された時でも、崩れたバランスを訂正しながらボールを捉えていくものです。

試合中継でホームランを打った時のスロー再生とか、翌日のスポーツ紙の写真などを見てもらえればよくわかります。

軸足が崩れている。
踏み出した足が流れている。
身体が泳いでいる。
等々・・・

素振りの時には絶対にしないような体勢ですが、全体としては素晴らしいバランスの中でボールを捉えているのを見ることができます。

ところが空手では、基本と組手の間に直接的な関係を見つけられず、選手のみならず指導者までもが、いくら基本をしても組手がうまくならないと思っているのですが、それは単に基本と組手を繋ぐ糸を見つけていないからなのです。

素振りの時と同じスイングでボールを打つことなんてことはほとんどありません。
空手でも基本と同じ形で突いたり蹴ったりできないのと同じです。相手がいるのですから。

変わった稽古をしている方がなんか早くうまくなれそうな気がしますが、そんなことはありません。基本繰り返し繰り返し、が重要なのです。

素質のある人はたくさん組手をする中で、自然と技の特徴、タイミングを掴み、勝手にうまくなっていきます
けれど多くの人は自由に殴りあっているだけではうまくなりません。
一つの技を覚えたら、いかに組手の中でそれを使うかを考えて稽古しなければいけないからです。
しかし自分ひとりで考えて稽古していては、どこをどうすればよいのかわからない場合が多くあります。
そこで人から教えてもらう必要が出てくるのです。

自由組手を行う中で、自分の動き、技をいかに使うか、相手によってどう使い分けるかというのは個々人の違いがありますから、最終的には自分で考えて自分の組手の型を作り上げていかなければいけません。しかし、多くの相手と組手をする中で自分でそれを掴みとっていけるのは素質のある奴です。

ほとんどの人は
「なぜオレの蹴りは当たらないんだろう」と悩んだ結果、
「やっぱり素質がないからムリなんだ」と
勝手に納得して、そして諦めてしまうのです。

もちろん体格の違い、身体の柔軟性など、素質に恵まれているなぁと思う奴はいます。
それに比べて自分は・・・などと考えると
「とてもムリ」

という結果が先に見えてしまうのです。

しかし、飛び後ろ回し蹴りとか踵落としなど、柔軟性がなくてはできない技もありますが、稽古の中で自分の組手を作り上げることを考えれば、自分にできる技いかに組み合わせるかが大事になってきます。

つまり、柔軟性の問題などでできる技の種類が限られているとしたら、使える技を磨けばよいのです。

地味で単純に見える技だからこそ、その技を繰り返し繰り返し稽古して、知っているだけの技からできる技、そして組手で使える技へと高めていき、更にこの技だけは誰にも負けないと言えるところまでくれば、十分組手で「素質がある」奴と渡り合うことができるのです。

逆に考えれば、10種類の技をできる奴が、1時間の間に全部を稽古するとしたら、1つの技を稽古する回数は少なくなります。ところが不器用で使える技が少ない奴は、その間ずっと1つの技を稽古し続けるしかないのですから、10倍その技を磨いていることになります。
1つの技を10倍稽古すれば、さすがに相手よりうまくなっていると思いませんか?

つまり不器用な人の方が強くなれるチャンスを持っていると言えるのです。

自由組手をたくさんやって勝手に強くなっていける奴は素質に恵まれた奴です。しかし、私を含め、ほとんどの人はそうではありません
素質がない奴はどうするのか?

答は簡単です。
「基本に戻って稽古をする」

これに尽きます。

ネットを見ていると、
素質がなくてもこの練習方法でカンタンに強くなれました。
なんていう広告を目にすることがあります。

ハッキリ言いますが、そんなものはデタラメです。
ある程度の楽しむレベルまで行くことができる、というのならそれは可能かもしれませんが、実力が問われる武道の世界で、 努力せずに簡単に強くなれるなんていうものはあり得ません。ウソッパチです。

素質の無いものが素質のある奴に勝つ唯一の方法は、
そいつよりたくさん稽古をすることです。

素質のある奴より少ない稽古量で勝とうなんて、「厚かましいにも程がある」というもんです。もちろん意味のない無駄な稽古をしていてはいけません。上にも書いたように素質のあるヤツは組手をたくさんしていれば、勝手にうまくなっていきます。
素質のない人間はどうすればよいのか。

それはうまくなれる稽古をすればよいのです。

うまくなれる稽古とは、魔法のようにあっという間に上達するとか、これさえ知っていれば大丈夫、なんてものではありません。
基本に則った段階を踏んだ稽古が必要なのです。

鳳雛会は他のフルコンタクト道場と比べると自由組手の比率が小さいと思いますが、それには理由があります。
ヘタクソとか、素質がない、と言われている人たちでもステップバイステップで、うまくなっていく方法で稽古しているからです。

組手稽古で言えば約束組手がほとんどです。
攻守を決めて出す技を限定することにより、上級者と初級者が一緒に稽古できるのです。自由組手だけでは上級者にとっては相手が物足りないし、初級者からすれば全く歯が立たないので、お互い稽古にならないからです。

そして他の道場よりミット稽古が多いと思います。
ミット稽古では同じ技、同じ動きを繰り返し行い、数多くミットを叩き、蹴ることで、身体にその技の動きを覚えさせるようにしています。

ある意味、単調で飽きが出てくるかもしれませんが、チョコっとやって「こんなカンジかなぁ」で終わってはいけません。
ちょっとカンジを掴んだだけで、それを組手で難なく使える奴もいますが、素質のある奴と同じことしかしないで、そいつより強くなれるわけがありません。
繰り返し繰り返しミットを蹴り続けることが必要です。

私の師範は、実際にモノに当てるまでが基本だ、と言っていました。その意味ではミットを蹴るのも基本の稽古だと言えます。

なんにしても、一つの技を身体で覚えるまで繰り返すこと、これが稽古の基本であり、本当にレベルの高い人ほど、これに気付いて基本を繰り返しているものですが、なまじ素質のある人は、ある程度できてしまうがゆえにこのことに気付かず、一定のラインから伸びなくなっていくのです。
素質のある人も無い人も、強くなろうと思ったら、
基本をコツコツ続けること
これが一番大切です。


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