身体の仕組み


拮抗筋理論


空手での応用
 人間の体が動くのは骨と筋肉が連動しているからであって、気の力ですごいパワーが出るなんていうのも、筋肉の出力を「気」でコントロールしているのに過ぎないものです。

 筋肉は骨を支点として収縮し、接続しているもう一方の骨を引き寄せることで体が動きます。
 この時に反対側に付いている筋肉(拮抗筋)が同時に収縮すると(これを共縮と言います)、本来持っている力が発揮できません。
 10の力を持っていても、反対側の筋肉も収縮して3の力で引っ張っていると、力が相殺されて7しかパワーが出せないということです。

 筋力トレーニングの方法には筋肉を拮抗筋と共に締めるというやり方もあって、ボディービルダーのポージングなどは全身に力を入れて見える筋肉を際立たせますが、動きのあるスポーツの場合は筋肉が共縮すると動きが止まってしまうことになるので、そのような体の使い方はほとんどしません。緊張して全身に力が入るということがありますが、そうなると固まって動けなくなってしまいますから、拮抗筋には力が入らないように体の動きを訓練していくのです。

 力を発揮する時に拮抗筋が全部脱力して出力をゼロにすると肉離れを起こしたり、靭帯を伸ばしたりすることになるのでそのバランスが重要になってくるのですが、これは自分から攻撃を出す時だけの事ではなく、攻撃を受ける時にも関係してきます。

 打撃をもらう時に力を入れて筋肉を締め、ダメージをできるだけ少なくするという方法があります。誰でも打撃が来る時にはその部位に自然に力を入れるものですが、拮抗筋まで緊張してしまうと固くなって動きが鈍くなってしまいます。ですから、対戦モードにある肉体では打撃が来るところに瞬間的に力を入れますが、他の部位に無駄な力が入らないようにします。それが訓練であり、稽古を繰り返すほどその動きが反射的にできるようになっていきます。

 人の身体の仕組みとして、筋肉が力強く収縮する時に拮抗筋にまで力が入ると動きが固くなってエネルギーのムダになるので、拮抗筋は自然と力が緩むようになっていて、これを利用して力いっぱい力みながら引っ張り返してストレッチする方法も最近は広まってきています。(PNFストレッチ)

 つまり、一方に力を入れると反対側は自然と力が抜けてしまうものなのです。

 上級者になってくると、こういった防御側の反射的な受けの反応を利用して攻撃するやり方も利用するようになってきます。
 これを攻撃する時に応用するのが、捨て技、極め技の使い方です。
 普通のコンビネーションでは、捨て技で誘って空いているところに極め技を入れるというのが基本的なものですが、更にこれを進めた上級者用とも言えるやり方です。

 具体的にどのようなやり方でコンビネーションを組むのかですが、一つ例を挙げれば、ボディ前面を叩く事で相手は腹筋を締めます。そこで、サイドから後ろ側(レバー)を叩くのです。 前の腹筋を締めれば締めるほど背中側の筋肉は緩むことになりますから、正面を叩いてからレバーへの回し打ちなどで攻めるのです。

 後ろからの攻撃は反則になるのではないかと思われるかもしれませんが、相手の前に立って攻撃して、手足が後ろまで回って当たったとしても反則として取られる事はありません。
 初めから後ろに回って攻撃するのは試合のルールでは反則になるところが多いのですが、正面で打ち合っていて、パンチが少しくらい背中側に回っても反則に取られる事はまずないでしょう。正面から上段回し蹴りを蹴って、足の甲が後頭部まで回り込んで当たっても反則にならないのと同じです。

 強力な打撃が来る時にはそれに合わせて体に力を入れて耐えようとするものですが、前面からの攻撃が強力なほど、その裏側は力が入りにくくなっています。
 そこで,その裏側を攻めるのです。

一般に、捨て技というと軽いフェイントみたいなものをイメージすることが多いのですが、極め技に繋げるための捨て技という考え方からすると、極め技の威力を最大限に発揮できるようにするために捨て技を力強く入れる方法もあるということです。

 単に相手の受けを想定したコンビネーションを組み立てるだけではなく、相手の体の生理的反応まで考えたコンビネーションは一段上のレベルの技術です。それが使えるようになるくらいまでしっかり技術を身に付けましょう。


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